ミッション16—2 敵国潜入
ベレル西部のとある森の中。
2機のNH900は着陸し、森で待っていた作戦参加者たちを迎える。
作戦参加者の中には、ホーネットとデスグローの2人の姿もあった。
ホーネットはヤサカに頼まれ、デスグローはキョウゴの指示でここにやってきたのだ。
ホーネットとデスグロー以外のプレイヤーたちは、主にベレルのクエスト掲示板で集めた者たちである。
彼らは皆『メリア軍基地襲撃クエスト』の参加者ということだ。
その人数、30人。
「おいてめえ! この俺様がてめえなんかに手を貸してやるんだぞ! 感謝しやがれ!」
「いつもいつも感謝してるぞ、スグロー」
「その呼び方してる時点で感謝なんかしてねえだろ! とことんムカつく野郎だ!」
平常運転のデスグローに対し、ファルは呆れる気すら起きない。
ホーネットは不思議そうな顔をして、ヤサカに聞いた。
「ねえ、ファルとデスグローの関係性って?」
「私もよく分からないけど、顔を会わせるたびに喧嘩するような関係性、かな」
「あっそ。ファルを見た途端にデスグローが叫び出したから、なんか憎しみ合ってるのかと思った」
「憎しみ合ってはないよ。喧嘩するほど仲が良いとも言うしね」
「さすがに仲は良くないんじゃない?」
「それなら、喧嘩するぐらいには仲が良い、とか」
「あ、納得」
テキトーな会話を繰り広げるヤサカとホーネットであるが、彼女らの言葉はファルの耳に届かない。
今のファルは、デスグローとの喧嘩で精一杯なのだ。
とはいえ正直なところ、デスグローと喧嘩している場合などではない。
デスグローとの喧嘩よりもはるかに大きな問題があるからだ。
「実に〝不思議〟だ。仲間同士だというのに、作戦開始〝前〟から喧嘩とは」
「……どうしてお前がいる?」
「〝クエスト〟に参加しにきたんだ。君たちが〝募集〟したんだろ」
プレイヤーに紛れた、能面で顔を隠す男。
以前に会った時よりも大柄な体型ではあるが、この可笑しそうな口調は間違いない。
ディーラーが、『メリア軍基地襲撃クエスト』に参加しているのである。
当然、ファルはディーラーに対し不信感を抱いた。
対してディーラーは、ケラケラと笑ってファルに言う。
「〝不安げ〟だな。だがなにも〝心配〟しなくていいさ。前回は〝オレの〟クエストに君たちが参加した。だからオレは君たちを〝楽しませよう〟とした。今度は〝君たちの〟クエストに〝オレが〟参加するんだ。オレは君たちに〝従う〟よ」
「信用ならないな」
「随分と〝冷たい〟じゃないか」
「自業自得だろ」
氷柱のように冷え切った言葉をディーラーに突き刺すファル。
それでもディーラーは笑っていた。
「何かあれば〝殺して〟くれても良い。だがこれだけは言わせてくれ。オレは〝ゲーム〟を〝ぶち壊す〟ようなことはしない。是非とも君たちの〝ゲーム〟で、オレを〝楽しませて〟くれ」
堂々と言い放たれたディーラの言葉は、真実のようで嘘のよう。
ディーラーを信じて良いのか悪いのかの判断がつかない。
彼をクエストに参加させて良いものなのだろうか、ファルは頭を悩ます。
1人で悩んでいても仕方がない。
ファルはヤサカとホーネット、レオパルトとともに話し合いをはじめた。
「どうするんだ? ディーラを連れて行くのか? 置いて行くのか?」
「置いて行った方が良いと思うよ。作戦を妨害されちゃったら、マズイからね」
「ファル、あいつがお前の言っていた、『顔のない男』で間違いないのか?」
「間違いない。あんなヤツ、他にいない」
「だったら僕もディーラーを置いて行くのに賛成だ。頭のおかしいヤツは放置するべきだ」
「そうだな。じゃあ――」
「待って。あたしは連れて行くべきだと思う」
はっきりと言い切るホーネット。
彼女はどうしてディーラーを連れて行くべきと口にしたのか、その理由を語る。
「あいつを置いて行ったりなんかしたら、警察や軍隊に通報される可能性があるじゃん。その可能性を考えたら、クエストに連れて行って、常に監視した方が良いでしょ」
「一理あるな。ゲームをもっと楽しくしてやる、とか言って警察軍隊に通報なんかされたら、最悪だぞ」
「そうだね。ディーラーは常識で相手しちゃいけない人かもしれないね」
「よし、ディーラーをクエストに参加させるが、良いな?」
「良いよ」
「反論なしだ」
ホーネットの訴えにより3対1の多数決は覆され、ディーラーをクエストに連れて行くことが決定した。
しかし話し合いはまだ続く。
「それで、誰が監視するんだ? 誰が見張るんだ?」
「ステータスから考えると、私かホーネットのどっちかだね」
「ヤサカが監視するとなると、俺たちが監視することになるが……俺たちは無理だな」
「無理だね……」
「は? どうして?」
「俺たちはティニーとラムダの世話をしないといけないからだ」
「私たちはティニーとラムダの世話をしないといけないからだよ」
「I see.」
ディーラーが危険ならば、いつロケランをぶっ放し戦車で爆走しだすか分からぬティニーとラムダも危険なのだ。
ティニーとラムダには、ファルとヤサカという
となれば、ディーラーを監視するのは自ずとホーネットになる。
これに対し明らさまに嫌そうな顔をしたホーネットは、それでもディーラーの監視を引き受けた。
「OK, クレイジー野郎はあたしに任せて」
「ありがとう。ホーネット、気をつけてね」
「気をつけるのはあたしじゃなくて、ディーラーの方」
そう言ってニタリと笑うホーネット。
彼女はディーラーの仮面を睨みつけ、ドスの効いた声で言い放つ。
「ちょっとでもクエストを邪魔するようだったら、その首、地面に落とすから」
「ハハハ、おお〝怖い怖い〟」
分かりやすく脅迫されているディーラーは、しかし可笑しそうに笑い声を上げながら、わざとらしくおどけてみせる。
それを見て一瞬だけムッとしながらも、ホーネットはクイックモードを発動した。
すでにディーラーはホーネットの戦闘範囲におり、何かあれば、ディーラーの首はホーネットの宣言通り、地面に落ちるのだ。
ディーラーという問題に一応の決着をつけたファルたち。
ファルとヤサカはプレイヤーたちに呼びかける。
「みなさん、ヘリの給油が終われば、二手に分かれて出発です。目的地はロスアン近郊にあるエッジバレー陸軍基地とノースロス空軍基地。この2つの基地を機能麻痺させて、メリア軍を混乱させるのが今回のクエストの勝利条件です」
「エッジバレー襲撃チームは、クーノが操縦するヘリで、ホーネットとレオパルトくん、ディーラーさんたち20人。ノースロス襲撃チームは、ラムの操縦するヘリで、私とファルくん、ティニー、デスグローさんたち18人です」
「敵はこっちの存在に気づいてないだろうから、まあまあ簡単なクエストだと思うので、あんまり緊張せずクエスト達成を目指しましょう。クエスト達成の報酬は、それなりの金額とアイテムなので、お楽しみに」
ファルとヤサカの説明を聞いて、プレイヤーたちのクエストへのやる気が盛り上がった。
特にクエスト報酬という単語に対して、プレイヤーたちの反応が良かった。
現金な人々である。
さて、それから十数分後。
ヘリの給油とティニーの武器配布が終わり、それぞれのヘリに二手に分かれたプレイヤーたちは、それぞれの目的地へと向かう。
ベレルの国境線を越えれば、その先にあるのはメリアだ。
八洲と戦争中のメリアだ。
戦時体制の〝敵国〟への潜入に、プレイヤーたちは緊張感に包まれていた。
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