ミッション15—4 どうすれば売れるのか

 トップアイドルのショコラメンバーであるヒヨコ。

 現実ではトップアイドル、ゲーム内では地下アイドルのヨツバ。

 この2人が顔を合わせた結果、ヨツバの鬱屈としていたものがすべて発散される。


「納得いかな~い! ただのそこらにいる女子高生レベルが! なんで! トップアイドルになれるの!? なんで現実でトップアイドルの私が! こんな落ちぶれてんの!?」


「も……もしかして……ヨツバさんですかッ!?」


「その通り! 私は、ぷりてぃースターズのヨツバ! 今は犯罪者と一緒に地下活動してるヨツバ!」


「おい、犯罪者とはなんだ。地下活動とはなんだ」


「ヨツバさんなんですねッ! ヒヨ、ヨツバさんのファンなんですッ! サインくださいッ!」


「ああ! もう! どうして話の流れを無視するの!? このNPC女~!」


「ご、ごめんなさいッ!」


 怒りが収まらないヨツバは、いつものぶりっ子などどこ吹く風、もはや幼児のよう。

 彼女は両腕をバタバタとさせながら、ヒヨコに対し宣言した。


「あなたも5日後のフェス、出るんでしょ!? 私も出るの! 絶対負けないから! 絶対私の方が人気になってやるから! 覚悟しなさい! キイイィィーーーー!!!」


 一方的な宣戦布告。

 ヨツバはヒヨコの答えも聞かず、プンスカとどこかへ去って行ってしまった。

 置いて行かれたファルは、開いた口がふさがらない。


 少なくとも、ヒヨコには謝罪する必要がある。

 ファルはヨツバの代わりに、ヒヨコに頭を下げた。


「あの……なんかすみません」


「いえいえッ!」


「ヨッツー、ちょっと焦ってるだけですから。あんまり気にしないでください」


「大丈夫ですッ!」


「ええと……それじゃ」


「さようならッ!」


 ヒヨコの反応はバリエーションが少ない。

 表情も画一化したもの。

 まるでNPC。


 ヨツバと違って、トップアイドルのようなオーラもヒヨコからは感じられない。

 正直ヨツバの言う通り、これでは普通の女子高生である。

 とてもじゃないが、ヒヨコはトップアイドルには見えないのだ。


 トップアイドルには見えないが、可愛い女の子であるのは確かであろう。

 まるでNPCの、普通の可愛い女子高生。


 そこまで考えて、ファルはあることに気づいた。

 ヒヨコに背を向けヨツバを追いながら、ファルは希望を胸にする。

 もしかしたら、ヨツバは人気アイドルになれるかもしれないと。


    *


 音楽フェスまであと4日。

 下準備のため、ファルとヨツバ、ヤサカ、レオパルト、ティニー、ラムダが江京ドームに集まった。

 

 フェスを前にして、レオパルトは自信満々、ティニーとラムダはボケっと、ヤサカとヨツバは不安な様子。

 ここでファルは、ヨツバたちにあることを伝える。


「ちょっと聞いてくれ。大事なことなんだ」


「なに、ファルくん?」


「この前、八洲のトップアイドルグループのショコラに会って気づいたんだ。ヨツバは絶対に、NPC相手じゃ売れないって」


「い、いきなりひどい! 私のモチベーションを奪わないでよ~!」


「待て待て待て、話はこれからだ。どうもNPCは、ごくごく普通の女性が好みなんだと思う。NPC支持率を上げるには、はっきり言ってつまんない女性の方が有利だ。だから、ヨッツーみたいな変わった女性じゃ、NPC相手に売れるのは無理」

 

「バカにしてない!?」


「バカにはしてない。いいか、NPC相手に売り込むのは無理だが、プレイヤー相手なら売れる余地はある。むしろ、ヨッツーのネームバリューで簡単に売れるはず。ヨッツーはNPCを無視して、プレイヤーに売り込むべきだ」


 つまりは、売り込むべき相手を絞れということ。

 無理に万人受け――ここではNPC受け――する必要はないのだ。

 熱狂的なファンだけが味方してくれる、というのもひとつの売れ方なのだ。


 このファルの意見には、ヨツバたちも納得したようである。

 

「お兄さ~ん、すごいです~! 私じゃ~、そんなこと思いつきもしませんでしたよ~」


「ファル、やるな。名プロデューサーだな」


「確かに、ファルくんの言う通りかもしれないね」


 ティニーとラムダは江京ドームの広さに驚いており、話を聞いていない。

 反論がないということで、ファルの意見は自然と採用された。

 ファルの意見が採用された上で、ヨツバとレオパルトは質問する。


「どうやって~、プレイヤーたちに私を売り込むんですか~?」


「ヨッツーを売り込む良い考えが、ファルにはあるのか?」


「ある」


 首を縦に振り、短く答えたファル。

 彼はそのまま話を続けた。


「クエストを利用する。ヨッツーのライブに参加してくれたプレイヤーは、ライブ終了後にヨッツーと握手ができるっていうクエストをやるんだ」


「握手会商法だね」


「その通り。多くのプレイヤーが目にするクエスト掲示板でヨッツーのライブを宣伝しながら、同時にライブ参加をクエスト化することで、ファンを増やそうっていう算段だ。ついでにティニーが出した道具を特典にすれば、チート使いも増やせる」


「課金必須のクエスト攻略だな。金の亡者らしい方法だな」


「やっぱりファルくんは、お金のことになるとすごいね」


「お兄さ~ん! 私は金のなる木――お兄さんが~、大好きです~!」


「お前ら素直に褒めてくれても良いんだぞ」


 微妙な感心の仕方をするヤサカたち。

 それでもやはり、彼女らがファルの意見に反対することはない。

 ティニーとラムダは話を聞いていない。


 これで、対象をプレイヤーに絞ったヨツバの売り込みの方法は決まりだ。

 最後にファルは、大事なことを口にする。


「ところでヨッツーは、本気でショコラに勝ちたいのか?」


「勝ちたいですよ~。本気です~! あんな普通の女子高生とNPCに負けてられない!」


「ならこっちもグループを作るべきだ」


「グループですか~? 今からグループを作るんですか~?」


「そうだ。ヨッツーとヤサカ、ティニー、ラムダの4人でな」


「え? ファ、ファルくん!?」

「背後霊が驚いてる」

「何かすごい言葉が聞こえてきました!」


 一斉に驚くヤサカたち。

 ファルにとっては想定通りの反応。

 ヤサカたちの驚きなど、ファルは一切気にしない。


「もともとヨッツーはアイドルグループの一員だったんだし、曲だってソロ曲は売れてない印象があったし――」


「やめてくださ~い! 1500枚しか売れなかったソロ曲の話はやめてくださ~い!」


「――きっと1人でアイドル活動やってるのも良くないんだと思う。だから即席で、イミリア限定ぷりてぃースターズを結成すべきだと思うんだ」


「で、でも……なんで私たちがメンバーなの?」


「そうですよ! わたし、アイドルなんてやったことありません! 歌だってうまくありません!」


「大丈夫だラムダ。アイドルに歌唱力は必要ない」


「トウヤ、偏見がすごい」


「それにお前ら、ほら……その……」


「その……?」


「……可愛いから大丈夫だ!」


「ちょ、ちょっとファルくん! 恥ずかしいこと言わないでよ!」


「さすがです! お目が高いです! ファルさんはわたしの魅力をきちんと分かっているんですね!」


「背後霊、照れてる」


 あまりに正直なことを言ったファルに、ヤサカは顔を赤くしラムダは喜び、ティニーはよく分からない反応。

 どうにもヤサカがモジモジしはじめたので、ファルは話を先に進ませる。


「ただな……4人グループはしっくりこないんだよな……できればもう1人いるとちょうど良いんだが……」


 もともとぷりてぃースターズは5人組。

 そうでなくとも、4人組というのはファルの中でしっくりこない。

 ここで提案をしたのが、レオパルトだった。


「クーノはダメなのか?」


「絶対ダメだ。あいつはファンの方だからな」


「ああ……確かに……」


 もう1人のメンバーは誰にすべきなのか。

 頭を悩ますファル。

 そんな彼の視線に、1人の女性が写り込んだ。


「うん? あれは……ホーネットか!?」


 ブロンドヘヤーにすらりとした長い足、白い肌をさらした美少女ホーネットが、江京ドーム前を歩いている。

 ファルは駆け足でホーネットに近づき、話しかけた。


「おーい! ホーネット!」


「え? って、ゲッ! なんであんたがここに!?」


「それはこっちのセリフだ。ベレルに住んでるお前が、どうして江京に?」


「別に。ここでしか買えない限定商品を買いに来ただけだから。あんたには関係ない」


「あっそう。なあホーネット、4日ぐらい暇か?」


「……まあ、暇だけど」


「じゃあ、ちょっとヤサカと一緒に手伝って欲しいことがある」


 5人目のメンバーを、ファルは運良く見つけたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る