ミッション13—6 葦原甲板上の戦い

 なんとかガロウズを足止めし、甲板へと向かうファルとヤサカ、レイヴン。

 ラムダはティニーたちと無事に合流し、後部甲板にヘリを用意できたのだろうか。

 外で何が起きているかは何も分からぬが、今はティニーたちを信じるしかない。

 

「そこの水密扉を閉めろ! ガロウズの野郎を閉じ込められる!」


「分かりました!」


「ファルくん、急いで! もうガロウズはすぐそこまで来てるよ!」


「はあ!?」


 50体以上のコピーアレスターが、ガロウズを止めてくれているはずだ。

 ファルはヤサカの言葉がにわかには信じられない。


 しかし、コピーアレスターの死体がすぐそこまで吹き飛ばされてきた時点で、ファルはヤサカの言葉を受け入れた。

 通路の先には、紫色の光が浮かび上がっている。

 すでにガロウズはコピーアレスターを殲滅し、ファルたちを殺そうと迫ってきているのだ。


「何がチート持ちを排除するNPCだ!? あいつの方がよっぽどチートだろ!」


 心の声を口から吐き出しながら、水密扉を閉め通路を封鎖したファル。

 直後、その水密扉に強い衝撃が走り、鉄の歪む音が響き渡った。


「急ごう! この扉も長くはもたないよ!」


「みてえだな。走れ!」


 ともかくガロウズからは逃げるが勝ち。

 ファルは水密扉の前にコピーアレスターとコピー鬼たちを配置し、ヤサカとレイヴンとともに全速力で走る。


 階段を登り、通路を抜け、ファルたちは甲板に出るための扉に手をかけた。

 いつガロウズが背後に現れるか、知れたものではない。

 扉を開けるわずかな時間すら、足を止めるのは恐ろしい。


「開けたぞ!」


 レイヴンの叫びを聞いて、最初に甲板に飛び出したのはファルだ。

 閉鎖的な艦内から開放されファルは一安心。

 だが、一安心などしている暇はないのである。


 右横を見ると、甲板を走る5人のアレスターがいた。

 左横を見ると、後部甲板で回転翼を回すヘリから、ティニーがこちらにSMARLスマールを発射していた。

 

「うお!?」


 ファルのすぐ目の前を飛び抜けるロケット弾。

 危うくティニーに殺されるところであった。


 ロケット弾は5人のアレスターを炎と衝撃に包み込み、排除する。

 加えて、同じくヘリに乗るサルベーション本隊がファルたちを援護してくれているようだ。

 なんやかんやと頼れる仲間たちである。殺されかけたけど。


「ヘリはちゃんと用意できたみてえだな」


「みんなヘリに乗ってるみたいだね。船に残ってるのは私たちだけだよ」


「俺たちも行くぞ! あいつらを待たせるわけにはいかない!」


 葦原は進み続け、敵艦は遠くへ逃げているとはいえ、ここはまだ戦場。

 アレスターは残っているし、ガロウズに至っては無傷だ。

 ファルたちが足枷となってティニーたちの逃亡を遅らせるわけにはいかない。


 ヘリまでの距離は約100メートル。

 15秒もあれば到着できるだろう。


 ところが、ティニーたちはその15秒を待とうとはしなかった。

 なんとクーノの操縦するヘリは、甲板を離れ空に浮かび上がってしまったのである。


「あれ? おい! なんで!? あいつら、俺たちを置いて行く気か!?」


 戸惑いと怒りで混乱するファル。

 それに対し、ヤサカとレイヴンは冷静であった。 


「俺たちがヘリのとこに行くってことは、敵もヘリのとこに行くってことだからな。まあ、さっさと出発するのは仕方ねえだろう」


「だからって、置いていかなくても……!」


「私たちは置いてかれてなんかいないよ。ほら、ヘリからロープが垂れてる」


 ヤサカの言う通りだ。

 葦原に寄り添うように低空飛行するヘリからは、1本の長いロープが垂れ下がっていた。

 しかもそのロープは、器用にファルたちのもとに近づいてくる。


「まさか……あれに掴まれってことか?」


「俺たちのステータスなら問題ねえ。さっさと掴まれ!」


 ファルとヤサカ、レイヴンは、甲板を滑るように近づいてくるロープに手を伸ばした。

 ヘリから発せられる強い風、波による葦原の大きな揺れにも負けず、ファルたちはロープを掴む。


 ファルたちがロープを掴んだのを確認すると、ヘリは一気に高度を上げた。

 と同時に、ファルたちの体はふわりと宙に浮き、自分の体の重みがロープを掴む手に集中する。

 ここがゲーム世界ではなく現実であれば、ファルはロープを掴んでいられず海に真っ逆さまになっていたことであろう。


「ロープを引き上げろ!」


 ヘリからかすかに聞こえてきたキョウゴの声。

 ファルとヤサカ、レイヴンたちは、少しずつヘリに引き上げられていく。


 そういえばガロウズはどうなったのだろうか。

 ふとそんなことを思ったファルは、葦原の甲板を眺めた。


「おいおい、マジか……」


 葦原の甲板上には、黒のロングコートを風にはためかせながら、仮面の向こう側にある目でファルたちを睨みつけるガロウズの姿が。

 ガロウズの手にはライフルが握られ、銃口はファルに向けられている。

 

「ファル! 気をつけろ!」


「私が援護する!」


 ヤサカとレイヴンもガロウズの存在に気がつき、ファルに忠告した。

 忠告されたところで、ファルはどうすることもできない。

 彼はただただ、無事を祈って目を瞑るだけ。


「……の爆弾……火薬庫……仕掛けて……ました!」


 目を瞑ったファルの耳に入り込んでくる、ヘリに乗ったラムダの言葉。

 ヘリの音でほとんど内容は聞き取れなかったが、ヤバイ単語が揃っていたことは分かる。


 ラムダの隣では、ティニーがスイッチに指をかけていた。

 相も変わらず無表情のティニーは、特に大きな動作もなくスイッチを押す。

 

 ティニーがスイッチを押した直後だ。

 葦原から重い爆発音が轟き、続いて葦原の三番砲塔付近が大爆発した。

 爆発の衝撃が鉄を歪ませ分厚い装甲を突き破り、三番砲塔は宙を舞い、葦原は炎に包まれながら、龍骨キールごと真っ二つに折れ曲がってしまう。


 当然だが、ガロウズは爆発に巻き込まれ姿を消した。

 ファルたちも熱波と衝撃波に揺られ、ヘリも一瞬だけバランスを崩す。


「落ちる落ちる!」


 必死でロープに掴まるファル。

 戦艦をも吹き飛ばしたのは、間違いなくラムダとティニーであろう。

 おかげでファルはロープから落ちかけたが、命は助かったのだ。


 葦原が爆煙に包まれ、艦前部は大海原に呑み込まれてしまった頃。

 サルベーション隊員たちに引っ張られ、ファルたちはヘリに乗り込む。


「ああ……助かった……」


「怪我はなさそうだな。元気そうだな」


「おいレオパルト、今の俺が元気そうに見えるか? 頭痛で感覚が鈍ったか?」


「……そうかもしれないな。僕もファルも元気じゃないみたいだな」


 頭を押さえるレオパルトは、ゆっくり休ませておくべきだ。

 レオパルトが席に座ると、入れ替わるようにラムダとティニーがファルに近寄ってくる。


「ファルさん、ヤーサ、レイヴンさん、見ましたか!? さっきの大爆発!」


「派手な爆発。エヘヘ」


「見てないわけないだろ、あんなの。つうか、どうやったらあんな爆発起こせるんだ?」


「逃げる最中、主砲の火薬庫に爆弾を置いてきたんです!」


「1000ポンド爆弾、4つ置いてきた」


「……お前らってホントに頭おかしいよな。このボンバーウィメン」


「でもですよ! その頭のおかしいわたしたちに、ファルさんとヤーサ、レイヴンさんは救われたんですよ!」


「まあ、確かに。ガロウズを倒すならあのくらいやらなきゃいけないだろうし、お前らの頭のおかしさに感謝だな」


「わお! 褒められちゃいました! やりましたね! ティニーさん!」


「うん。私たち、トウヤの役に立つ」


「半分バカにしたつもりだったんだけど……純粋に喜んでるから、まいいか」


 海の上をすれすれで飛ぶ、ファルたちの乗ったヘリ。

 背後には轟沈する葦原。

 メリア海軍・八洲海軍合同艦隊の姿も、戦闘機の姿も見えない。


 あとは逃げるだけだ。

 手配度が消えるのを、待つだけだ。

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