ミッション13—4 戦艦『葦原』
戦艦『葦原』の戦闘指揮所に向かうファルたち。
途中、海の方に目をやると、1隻のクルーズ船がバーク級駆逐艦に突撃していた。
あのクルーズ船は、レイヴンが乗る船に間違いない。
「見て! レイヴンさんだよ!」
レイヴンの登場に喜ぶヤサカだが、クルーズ船で駆逐艦に勝てる可能性はないに等しい。
実際、レイヴンの乗ったクルーズ船はバーク級駆逐艦の主砲に撃たれ、炎に包まれた。
「おい……レイヴンさん……瞬殺されたぞ……」
燃え盛るクルーズ船を眺めながら、唖然としたファルたち。
しかしすぐに、ヤサカの側にレイヴンが現れた。
爆発に巻き込まれ死亡したレイヴンは、無事リスポーンしたのである。
「自殺ならログアウトされねえって信じて突撃してみたが、リスポーンできて良かったぜ」
「え!? まさかリスポーン狙いで駆逐艦に突撃を?」
「そうだぜ。クルーズ船からこの戦艦に乗り込むの面倒だからな、死に戻りを利用した」
「……ゲーム世界だからこその荒技ですね」
「だな。ま、慣れりゃ使える」
「いくらゲーム世界でも、死ぬのに慣れるのは嫌です」
なんにせよ、これでレイヴンとの合流も果たした。
今はともかく、戦闘指揮所に入り敵艦隊への反撃を行うべきだ。
ところで、レオパルトの顔色が悪い。
何かあったのだろうか。
「どうしたレオパルト?」
「いや、頭痛がするだけだ。いつもの頭痛だから、大丈夫だ」
「そうか……」
心配ではあるが、だからといってゆっくりしてもいられない。
ファルとレオパルトはいつも通りの調子で、艦内へと向かっていった。
艦内に入ったファルたちは、戦艦の装甲に敵主砲弾が当たる音を聞きながら、波と衝撃に揺れる無骨な廊下を走る。
目的地である戦闘指揮所がどこにあるのかは、ラムダに教えてもらった。
ただしそのラムダは、戦闘指揮所には向かわない。
「ラムダ! お前は操舵室に行け! 艦の操舵は任せた!」
「ファルさんよ、感謝感激です! 戦艦を操れるなんて、夢のようです! 行ってきます!」
鼻息を荒くしながら艦橋を登っていったラムダ。
ファルたちは艦の奥に進み、ようやく戦闘指揮所に到着した。
分厚い壁に包まれた、モニター類とわずかな明かりのみに照らされる、薄暗い部屋。
あらゆる海図が映し出された、スイッチまみれの戦艦の中枢。
ミリタリー感満載の部屋に、ファルとレオパルトの男の子ロマンが騒ぎはじめる。
さて、戦闘の指揮を執るのは誰なのか。
候補はレイヴンとキョウゴの2人だが、ここは現実で元自衛官のレイヴンが指揮官となった。
「主砲はティニーに任せる。敵艦隊に大穴開けてやれ」
「派手な爆発見られる。エヘヘ」
「ミサイル使った対空戦闘はクーノがやれ。それ以外のヤツは好きな席に座って、好きに攻撃しろ」
「対空戦闘はァ、得意中の得意だよォ」
「あの、好きにしろって言われても、俺こういう戦いやったことないんですけど……」
「なあに、ここはゲーム世界だぜ。現実じゃ面倒くせえ戦艦の扱いも、ゲームじゃ簡単だ。モニター見て、コントローラーのスティック動かして敵狙って、ボタン押すのと変わらねえ。お前の得意分野だろう」
「このおじさんの言う通りだぞ。現実の煩わしいものは極力減らしたんだぞ。どんな乗り物だって、素人でもある程度は使えるようにしてあるんだぞ。この戦艦のプログラムを作った私が言うんだから、間違いないんだぞ」
「なるほど、それならできそうな気がする」
レイヴンとサダイジンに不安を打ち消され、レイヴンに言われた通りテキトーに席を選んだファル。
ファルが座った席は、15・5センチ2連装砲を扱う場所であった。
試しに、ファルは2連装砲を操作をしてみる。
すると確かに、モニターを見てスティックを動かし、ボタンを押して敵に砲弾を発射するだけの簡単な仕組みだ。
やはりゲーム世界、これならば戦艦初乗りでも戦えそうである。
サダイジンに感謝しなくては。
ところで、モニターで外の景色を見る限り、葦原は全速力で航海しているようだ。
おそらくラムダが、葦原の最高速を楽しもうとしているのだろう。
「全員、配置についたな。じゃ、反撃開始といこうぜ」
戦闘指揮所を眺め、そう宣言したレイヴン。
彼はすぐさま次の指示を下した。
「ティニー、まずは敵空母を狙うんだ。沈める必要はねえ。甲板吹き飛ばして、飛行機を飛べなくすりゃそれで十分だ」
「分かった。空母、覚悟」
すでに4機の戦闘機が空を飛んでいるのだ。
これ以上に戦闘機を発艦させるわけにはいかない。
早速、ティニーは46センチ3連装砲塔3基すべてをミッツ級空母に向けた。
狙いを定めたティニーは、すべての主砲を発射。
9つの46センチ砲弾は空を駆け抜け、うち5つの砲弾がミッツ級空母に直撃する。
直撃弾によってミッツ級空母の甲板はめくれ上がり、カタパルトは損傷、ミッツ級は戦闘機を発艦させる能力を失った。
モニターに映るミッツ級空母は、黒煙を上げ海の上を漂う。
それを見て喜ぶファルたちだったが、戦いはまだ終わっていない。
「上空の敵戦闘機、ミサイル発射」
レーダーを眺めていたキョウゴの報告。
これに応えたのはクーノだ。
「射撃指揮装置はァ、敵の戦闘機をロックオンしてるよォ。あとはァ、スイッチを押すだけェ」
言い終わるのと同時、スイッチを押したクーノ。
葦原から放たれた4発のミサイルは、レーダーに誘導され敵戦闘機を追う。
一方で敵戦闘機が放った対艦ミサイルは、海上を這うように葦原へと向かってきた。
これに対し葦原は、レオパルトの操作によって対空ミサイルを放ち、8発中6発の対艦ミサイルを撃ち落とす。
残りの2発も、ヤサカが操作する近接防御システムのバルカン砲に蜂の巣にされ、葦原の手前で爆発した。
艦の外からほんのわずかに聞こえる爆発音。
クーノは成果を報告する。
「敵対艦ミサイルはァ、全部撃墜だよォ。だけどォ、敵戦闘機はァ、1機しか撃墜できなかったよォ」
「問題ねえ。敵戦闘機は放っときゃいい。帰る場所もねえような弾切れの戦闘機なんて、さっさと逃げていくだろうからな」
まさかファルたちが戦艦を出してくるとは思っていなかったメリア軍。
だからこそ、航空戦力はお粗末なものだ。
援軍が到着するにもまだ時間がある。
敵戦闘機は放置。
今倒すべきは、敵艦隊の駆逐艦だ。
「ティニー、ファル、大砲操作してるサルベーションの連中、敵艦をやっちまえ。現代艦なんざ紙装甲だ。砲を向けただけで逃げていくはずだぜ」
ニタリと笑いながら、レイヴンはそう言う。
これにファルたちも鼓舞され、またティニーは嬉々として、砲を敵艦に向けた。
砲を向けると、レイヴンの言葉が正しかったことが分かる。
3隻の敵駆逐艦は、なんとか葦原から距離を取ろうと必死に逃げはじめた。
数キロの距離にいる戦艦相手に、現代艦ではどうしようもないことぐらい、NPCたちも理解しているのである。
ただ、彼らも無抵抗で逃げ出しているわけではない。
敵駆逐艦は少しでも葦原に攻撃をさせぬため、魚雷を撃ち込んできたのだ。
「敵魚雷接近中!」
《魚雷ですか!? 回避行動ですね!? やりますよ!》
なぜだか楽しそうなラムダの声が、無線を通して聞こえてきた。
直後、葦原は最高速のまま面舵いっぱい。
艦は大きく傾き、ファルたちは何かに掴まらなければ椅子に座っていることもできなくなる。
さらに、葦原は対魚雷用のデコイを射出。
ラムダの凄まじい操舵とデコイにより、葦原は魚雷をなんとか回避した。
「敵艦、沈める」
そう呟いたティニーは、1隻のバーク級駆逐艦に対し主砲を発射。
46センチ砲弾は見事にバーク級駆逐艦1隻に命中した。
バーク級駆逐艦1隻は艦橋を潰され、爆破の衝撃でマストを折られ、破片を海の上に散らばせる。
たった1度の射撃で、1隻のバーク級駆逐艦を大破させてしまった葦原。
もはや敵なしとも思えるその強さに、ファルたちは勝利を確信した。
しかし、敵は3隻の駆逐艦と1隻の空母だけではない。
突如として、海中に潜んでいたであろう1隻の潜水艦が海上に飛び出し、葦原の針路を塞いだのだ。
潜水艦のハッチは開けられ、中から複数のアレスター、そしてガロウズが現れる。
《回避します! 揺れますよ! 掴まっててくださいよ!》
潜水艦を避けようと、ラムダは勢いよく舵を回した。
おかげで潜水艦との衝突は避けられたものの、ギリギリの回避。
葦原と潜水艦の距離は、一時数メートルまで近づく。
この一瞬の接近を、ガロウズとアレスターは逃さない。
なんと彼らは、葦原に飛び乗ってきたのだ。
「ヘッヘッヘ、あいつらマジかよ。おいお前ら、艦内での戦闘に備えろ!」
「簡単には逃がしてくれないみたいだな……」
海戦には勝利したも同然のファルたちだが、艦内での戦いはどうなるか。
艦内での戦いに勝つためにも、ファルたちはそれぞれ銃を手にする。
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