ミッション13—3 戦うための船が必要だ
カミとの会話で呆然とするファルたち。
そんな彼らのもとに、キョウゴがやってくる。
「メリア海軍の小型船が近づいている。おそらく臨検だ。君たちはそこに隠れていてくれ。我々が対処する」
「お……お願いします」
「事の次第によっては武力衝突に発展するかもしれない。準備は怠らないように」
「了解です」
キョウゴに言われた通り、ファルたちはサダイジンを隠れさせ、船内で息を潜めた。
あわよくば、このままサダイジンが見つからず、メリア軍には帰ってもらいたい。
だが最悪の場合も考え、ヤサカは拳銃を忍ばせている。
しばらくすると、大勢のNPCが船に乗り込んだのだろうか、甲板が騒がしくなった。
甲板ではキョウゴが必死に無実を訴えているのだが、果たしてどうなるか。
やはり、というべきであろう。
いくらキョウゴたちサルベーション本隊でも、メリア海軍の臨検を止めることはできなかったようだ。
軍服と黒のライフジャケットに身を包み、アサルトライフルを構えた3人の兵士NPCたちが、次々と船内になだれ込んできてしまった。
「動くな。メリア海軍だ。サダイジンはどこにいる?」
質問と同時に向けられる銃口。
兵士NPCの質問に対するファルたちの答えは、沈黙だ。
「船内を探せ。どこかに隠れているはずだ」
もとよりファルたちの答えなど期待していなかったのだろう。
何も言わぬファルたちを無視して、兵士NPCは船内の物色をはじめた。
扉という扉を開け、机をひっくり返し、ソファを倒し、壁や床を叩く兵士NPCたち。
そして彼らはついに、カーペットの下に隠れていた床の扉を見つけてしまう。
冷や汗を垂らすファルを横目に、兵士NPCの1人がその扉を開けた。
扉の向こうには、狭い荷物入れに隠れていた魔法少女の姿が。
「お前がサダイジンだな?」
「違ウンダゾ。私、サダイジン、知リマセンダゾ」
片言でこの場をやり過ごそうとするサダイジンだが、普通に無理だ。
兵士NPCは魔法少女をサダイジンと断定し、口を開く。
「標的を発見しました。排除します」
「やれ」
物騒な臨検である。
なんと兵士NPCは銃口をサダイジンに向け、引き金に指をかけたのだ。
次の瞬間には、サダイジンは頭を撃ち抜かれ死亡する。
「ウソだろ……」
「サダイジンちゃん!」
まさかの事態に怒りをあらわにするファルたち。
だが兵士NPCたちは、ファルたちにも銃口を向けたまま引き金に指をかけた。
「船に乗っている者は全員排除だ」
「よろしいのですか?」
「これは上からの命令だ」
「了解しました」
上からの命令とは言うが、その上とはカミのこと。
どうにもメリア軍は、最初からファルたちを全員殺すつもりだったらしい。
話し合いの余地がないのならば、ファルたちも容赦する必要はない。
ヤサカは兵士NPCたちが引き金を引くよりも早く、拳銃を手に取り兵士NPCたちに攻撃を仕掛けた。
キョウゴのおかげか、ファルたちを丸腰と思っていた3人の兵士NPCたちは、ヤサカにあっという間に撃破され、床に力なく倒れる。
「いきなり殺しにくるとは、想定外だった。いきなりすぎて、サダイジンを救えなかった」
「サダは死んじゃったんですか!? リスポーンしないんですか!?」
「まだ分からない、かな。フレンド登録は済ませてあるから、リスポーン場所はすぐ近くのはずだよ」
「リスポーンするならァ、あと20秒ぐらいだねェ」
「甲板から銃声、聞こえる」
「クソ! ふざけやがって! ヤサカ、キョウゴさんたちを助けるぞ!」
「うん、そうだね! 早く助けないと!」
船内の銃声が聞こえてしまったか、甲板からも銃撃音が聞こえてきているのだ。
ファルたちはしっかりと武装し、甲板に飛び出る。
甲板に出ると、そこではサルベーション本隊が、6人の兵士NPCと銃撃戦を繰り広げていた。
サルベーション本隊の前面に立ちキョウゴたちを守るのはデスグローだ。
「無敵の俺様を倒してみろ! 無能NPCども!」
相変わらずのセリフではあるが、今回ばかりは彼に感謝だ。
兵士NPCたちの攻撃は全てデスグローに遮られ、サルベーション本隊は1人として倒されていないのである。
しかも兵士NPC6人は全員デスグローに気を取られ、ファルたちに気づいていない。
このチャンスを逃すことなく、ファルとヤサカ、レオパルトは兵士NPCを攻撃。
背後から不意を突かれた6人の兵士NPCは、わずか数秒で全滅した。
ティニーは船から体を乗り出し、船に横付けされたボートに
ボートは完全に吹き飛ばされ、残骸は海に沈んでいった。
これで臨検にやってきた兵士NPCは、1人残らず殲滅完了だ。
「
「いえ、当然のことです」
「俺はてめえに感謝なんかしねえからな!」
「お前に感謝されても気持ち悪いだけだから、それで良い」
「ああ!? てめえはいつも――」
キョウゴだけでなくサルベーション隊員たちも、今回ばかりはファルたちに感謝しているようだ。
意地を張っているのはデスグローだけである。
デスグローがファルに怒りの言葉をぶつけ、ティニーに頭を撃たれた頃。
ヤサカのすぐ隣にサダイジンが現れた。
「いきなり殺されるなんて、びっくりだぞ。でも、私がペルソナ・ノン・グラータ認定されてなかったのはもっとびっくりだぞ」
「サダイジン、リスポーンした。一安心」
「またみんなに会えて嬉しいんだぞ! ゲーム世界なら死も怖くないんだぞ!」
そう宣言するサダイジンに、ファルは胸をなでおろす。
だが、現状は最悪なままだ。
「サダがリスポーンしました! 良かったです! しかも、見てください! バーク級イージス駆逐艦があんなに近くにいます! かっこいいです! 地獄の後は天国です!」
「みかづき型護衛艦もォ、ミッツ級空母もいるよォ。合計4隻の軍艦だねェ。良い光景だねェ」
「お前ら喜んでる場合か!? あれ全部敵だぞ!?」
「分かってますよ! だってほら! 駆逐艦が主砲をこちらに向けてます!」
「やっぱり喜んでる場合じゃないだろ! やばいよ!」
臨検隊の全滅を確認したメリア・八洲合同艦隊は、主砲を使ってファルたちの乗る船を沈めようとしている。
127ミリ砲に撃たれれば、クルーズ船などすぐに木っ端微塵だ。
しかしファルたちには、艦隊の攻撃を止める手段がない。
すくみ上がるファル。
一方でヤサカは冷静に、ラムダに指示を出した。
「ラム、海で使える一番強い船を出して」
「一番強い船ですか? 分かりました! 楽しみにしててください!」
このヤサカの指示の直後、艦隊の主砲による攻撃が開始された。
重い発砲音に目を瞑り、ファルは無事を祈る。
ファルの祈りが通じたのだろうか。
主砲から発射された砲弾は、クルーズ船の手前で潰れ海に落ちていった。
よく見ると、クルーズ船は青く透明な壁に包まれている。
ヤサカのスキル『シールド』が、クルーズ船を守ったのだ。
これでしばし時間を稼げる。
「シールドはあんまり長くは持たないよ。ラム! 船はまだ!?」
「今出しますよ! 腰を抜かさないでくださいね! ポチ!」
随分と軽い感じのラムダだが、彼女が出現させた兵器はとてつもないものであった。
全長270メートル、満載排水量70000トン、46センチ3連装砲を3基、15・5ミリ2連装砲を4基装備した、戦艦『
突如クルーズ船の隣に出現した戦艦は、着水と同時に大きな波を作り出し、その威容で敵艦隊を圧倒する。
「おお……マジかよ……」
「戦艦を見るのははじめてだけど、すごいね……」
「乗りましょう乗りましょう! 戦艦で海戦です! ロマンです!」
敵艦隊だけでなくファルたちも、戦艦を前にして言葉を失ってしまう。
いや、そんな暇はない。
ファルたちはすぐさま、ティニーの出した梯子を使って葦原に乗り込んだ。
厚さ410ミリの装甲は、127ミリ砲の砲弾など弾き飛ばしてしまい、敵艦隊の主砲による攻撃を無力化。
この間にファルたちは配置につくため、葦原の甲板を走る。
4隻の現代艦隊に対し、1隻の戦艦で反撃する時間は、もうすぐだ。
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