ミッション12—6 未知のダンジョン

 この先にある未知のダンジョンとはどのような場所か。

 それ以前に、ダンジョンの入り口はどこなのか。


 ファルたちの前に広がるのは、ケルベロスの死体が横たわる、大きな池に覆われた広大な空間。

 少なくとも、新たなダンジョンの入り口のようなものはどこにもない。


「キョウゴさん、キーアイテムの使い方は分かっているんですか?」


「分かっている。使い方はボックスに書かれていた。あの池に、このボックスを投げ込むだけだ」


「随分と単純なんですね」


「キーアイテムの使い方は単純でも、ダンジョン攻略が容易というわけではない。三倉ファル君たち、準備はできているか?」


「もちろん」


「わたしたちはバッチリです! いつでもどんなモンスターでも攻めてこい! です!」


 ファルとラムダの宣言と同時、ヤサカはスナイパーライフルを、ティニーはSMARLスマールを握りしめ、レオパルトとクーノは銃のスライドを引き、弾を装填した。

 それを見たキョウゴは、ファルたちの準備が万全であると判断する。


「では早速、はじめよう」


 キーアイテムのボックス片手に、池の前に立ったキョウゴ。

 彼はおもむろに、ボックスを池の中に投げ込んだ。

 果たしてこれだけで、新たなダンジョンが出現するのだろうか。


 池に落ちたボックスは、静かに沈んでいく。

 数秒後、池の中がまばゆく光りはじめた。


「おお! 綺麗です!」


 ラムダがそんな感想を述べた直後だ。

 鳴り響く地崩れのような音。

 洞窟は大きく揺れ、ファルたちは立っていることすらままならない。


 よく見ると、揺れとともに池の水位が下がっている。

 最初はゆっくりと、しかしすぐさま急激に、池から水が抜けていった。

 

 揺れが収まる頃には、地崩れのような音は消え、代わりに水が流れる音が響き渡る。

 数分もすると、池の水は完全に消え失せてしまい、池のあった場所には地下へと続く洞窟が。


「見てください! 道ですよ! 先に続く道ですよ!」


「未知のダンジョンらしい演出だよォ。良いねェ」


「池がダンジョンの入り口だったんだ……大掛かりなギミックだったね」


「強大な霊力、感じる」


 一様に驚くヤサカたち。

 対してサルベーション本隊は、別の視点から驚いていた。


「こんなことが……あり得るのか?」


「信じられない……」


「すごい……まるでゲームだ……」


「いや、そもそもゲームですし」


 思わずツッコミを入れてしまうファル。

 おそらくサルベーション本隊がゲームらしい体験をしたのはこれが初だ。

 なんとも初々しい反応である。


 レオパルトとキョウゴは、目の前で起きたことを冷静に分析。

 最初に口を開いたのはレオパルトだ。


「深そうな洞窟だ。先が長そうな洞窟だ」


「さらに地下へと続く道、といったところか。乗り物が欲しいところだ」


 キョウゴが口にした、乗り物という単語。

 これに過敏に反応したのは、ラムダである。

 彼女は目を輝かせ、キョウゴに言った。


「乗り物なら出しますよ! いくらでも出しますよ! なんでも出しますよ!」


 つまりは乗り物を出したいということ。

 ラムダのそんな願望は、現在のファルたちやサルベーション本隊のニーズに合っている。


鈴鹿ラムダ君、頼んだ」


「頼まれました! じゃあまずは、ヴェノムです! ヴェノムでラリーです!」


「うん? 鈴鹿ラムダ君、どういうことだ?」


「おいラムダ、キョウゴさんを困らせるな。サルベーション本隊から白い目を向けられてるぞ」


「え~、ヴェノムはダメなんですか!?」


「俺たちとサルベーション合わせて15人いるんだぞ? あの車2人乗りだし、そもそもこんな場所は走れないだろ」


「8台用意すればみんな乗れます! ラリーカー仕様もあります!」


「マジかよ……でも、ヴェノムは装甲がないだろ? 戦闘に弱い車じゃダンジョンはキツイからダメだ」


「なるほど、確かに! なら、何を出せば良いんですか!?」


「そうだな……11式戦車を1台、普通のストライカーを1台、ハンヴィーを1台頼む」


「おお! それはそれで面白そうです!」


 いちいちラムダを説得するのは面倒だが、そうでもしないとロクなことにならない。

 最近はファルも、ラムダの説得に慣れてしまった。

 ファルの説得を聞き入れたラムダは、早速メニュー画面を開く。


 暇な時、メニュー画面の乗り物一覧を眺めていることが多いラムダは、目的の車両を発見するのが早かった。

 3分と経たずに、ファルの望んだ通りの車両を洞窟内に出現させるラムダ。

 カップラーメンよりも早い。


「お待たせです!」


 ラムダの前に並んだ、戦車――11式戦車、装甲兵員輸送車――ストライカー、そして高機動装甲車――ハンヴィーの3台。

 ダンジョン攻略には十分すぎる装備だろう。


「それじゃ、俺とヤサカ、ティニー、レオパルト、クーノはハンヴィーに、ラムダは戦車に、サルベーション本隊の皆さんはストライカーに乗ってください」


「おいてめえ! なんでてめえが命令してんだよ!」


「うわ……スグローが元気を取り戻した……」


「デスグローだ! 何回言えば分かる! デスグローだ!」


「そうだったな。うるさいから黙ってろ、スグロー」


「喧嘩売ってんのか? ああん? いいぜ、その喧嘩買ってやるよ!」


「いくらだ?」


「は?」


「だから、いくらで喧嘩買ってくれるんだ? 10万か? 20万か?」


「ふざけんな! ぶっ殺すぞ!」


「もっとウィットに富んだ返しを期待してたんだがな。言うに事欠いてぶっ殺すとか、頭悪い証拠だぞ」


「マジぶっ殺す! ぜってえ許さねえ!」


「面倒くさくなってきた……ティニー、任せた」


「任せられた」


 喚きだしたデスグローの頭を、ティニーのAMR82の弾丸が直撃。

 再び痛みに悶えた――やはり微妙に笑っている――デスグローは、これでまた静かになった。


 小さくため息をついたキョウゴは、ファルの言葉を受け入れる。


三倉ファル君の言う通りにする。我々はストライカーに乗り込むぞ」


「了解しました」


「チッ……水着の美少女はお預けかよ」


「羨まけしからん」


 おや、サルベーション本隊のファルに対する不満が、いつもと違う。

 彼らは水着姿のヤサカたちに渇望の視線を向け、彼女らと同じ車に乗れぬことを悔しがっている。

 サルベーション隊員たちも、ヤサカたちのその姿には心を掴まれたということか。


 とりあえずファルは、サルベーション隊員たちにざまあ見ろと言わんばかりの表情をしてハンヴィーに乗り込んだ。

 

「トウヤ、悪魔みたいな顔」


「俺だけじゃないぞ。レオパルトもだ」


「ホントだ」


「ファルさんとレオパルトさんの今の気持ちィ、クーノもォ、痛いほど分かるよォ」


「クーノが分かるってことは、なんでファルくんとレオパルトくんがそんな顔してるのか、知らない方が良いってことだね……」


「ああ……またヤサカに変なイメージ持たれた……」


 呆れた表情を浮かべるヤサカ。

 ファルは少しだけ気落ちしながら、無線を手に取り、戦車に乗るラムダやストライカーに乗るキョウゴたちに呼びかけた。


「こっちは準備完了です。ラムダは?」


《準備よし! です! どんどんエンジン唸らせて、ばんばん主砲撃っちゃいますよ!》


「敵が出てくるまで大人しくしてろよ。キョウゴさんたちは、どうですか?」


《大丈夫だ。いつでも出発できる》


「分かりました。では、未知のダンジョン攻略開始です」


 ファルの言葉に従うように、1台の戦車と2台の装甲車は動き出す。

 先頭は11式戦車、その次にストライカー、最後尾にハンヴィーという順番だ。

 これだけの重装備なら、ダンジョンモンスターなど敵ではないだろう。


 池のあった場所から、新たに出現した地下へと続く洞窟に潜入する戦闘車両たち。

 果たして未知のダンジョンは、どのような場所なのか。

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