ミッション9—2 ディーラー現る
男はなぜ能面を付けているのか。
男はなぜファンタジー衣装に身を包んでいるのか。
怪しくミスマッチな能面男の登場に、ファルたちは返答に困ってしまった。
ファルたちの反応など、能面男は気にしない。
彼は腕を広げ、ファルたちを歓迎する。
「君たちはその〝クエスト〟に、興味を示した。そんな君たちに、オレは〝興味〟がある。君たちはきっと、〝ゲーム〟を楽しみたいと思う、〝本物のプレイヤーたち〟だ」
「ええと……すみません、あなたは?」
「クエストの〝妖精さん〟だ。それが信じられないなら、オレのことは〝ディーラー〟と呼んでくれ」
「は、はあ」
「君たちが〝興味〟を示した〝遊園地でのお遊び〟は、オレが募集する〝クエスト〟だ。クエスト〝参加者〟は5人集まってる。今、出発しようとしていたところなんだが、どうだ? 君たちも〝参加〟、してみないか?」
ディーラーと名乗る男に誘われてしまったファルたち。
ダンジョン探索などというクエスト内容には惹かれるが、さてどうするか。
とりあえずファルは、ヤサカたちの意見を聞く。
「どうする? 参加するか?」
「ダンジョンっていうのが気になるし、調査はしてみたいかな」
「
「ダンジョンには魔王軍の幹部がいるかもしれないのだ。参加するべき! にゃ!」
「やりましょう! 楽しそうじゃないですか! 楽しいことは逃がしませんよ!」
全員、ダンジョン攻略には乗り気なようだ。
ならば、ディーラーの誘いを断る理由はない。
ファルはダンジョン攻略参加を伝えるため、ディーラーの方に体を向ける。
するとディーラーは、笑い袋のように笑いはじめ、楽しそうに言った。
「いいね! 君たち! 特に〝君〟!」
「うん? わたしですか!? わたし、何か良いことしましたか!?」
「君は〝最高〟だ! 〝楽しいこと〟は〝逃さない〟。プレイヤーの鑑だよ。是非ともオレの〝冒険者ギルド〟に加わってほしいぐらいだ!」
「褒められちゃいました! なんだか嬉しいです!」
「ゲーム世界を〝ゲーム世界〟と認識できないような〝道化〟ばかりの中で、自分たちが現実の〝鎖〟に縛り付けられた〝現実の人間〟だと思い込む〝カミの家畜〟ばかりの中で、虚構を〝虚構〟だと認識し楽しもうとする〝君〟は、本物の〝プレイヤー〟だ!」
「何を言ってるのかよく分からないです! でも最高です! イエーイ!」
再び掲示板に響き渡るディーラーの笑い声。
なぜかラムダも一緒になって、ディーラーのように大口を開けて笑いはじめる。
話を聞く限りでは、ディーラーはゲーム感覚を維持しようとしている人物のようだ。
ログアウト条件のひとつに『この世界をゲーム世界と認識しゲームを楽しむ』というものがある以上、ディーラーは貴重な人材になるだろう。
『冒険者ギルド』なるギルドを運営し、ダンジョン攻略クエストの参加者を募集しているのだから、彼を利用すれば新たなプレイヤー救出作戦ができるかもしれない。
こう考えたのは、ファルだけではなかったようだ。
ヤサカもまた、ディーラーを味方に引き入れることを頭に浮かべていた。
「ディーラーさん、もしかしたらだけど、ベレルでのプレイヤー救出の協力者になってくれるかもしれないね」
「ヤサカもそう思うか」
「とりあえず、ダンジョン攻略に参加してみて、ディーラーさんと仲良くなるところからはじめようか」
「だな。まずは人となりを知りたいし」
どうにもディーラーの怪しい雰囲気が気になってしまうファル。
まあしかし、ディーラーがラムダと気が合うような変人であるのはすでに確定しているのだ。
ラムダと一緒でテンションが高い人物と思えば、面倒な人物がまた1人増えただけである。
現状、ベレルに協力者はいない。
レジスタンス参加者も10人程度しかいないと、レイヴンがため息をついていた。
頼りになるかもしれないホーネットも、ただの暴れ馬。
コトミによると、メリアではすでにサルベーション本隊が協力者を得たようだし、協力者がいないのはベレルだけだ。
もしディーラーが味方になってくれるのであれば、こんなに良いことはない。
「ディーラーさん、俺たちもダンジョン攻略に参加します。よろしくです」
「一緒にダンジョン攻略、楽しみましょう」
「私の霊力、使っても良い」
「ダンジョン攻略なのだ! 今度こそ迷子にはならないのだ!」
「ワクワクです! 新しいダンジョンは、いつもドキドキです!」
「ハーハッハッハッハ、君たちに会えて、今日は〝最高〟だ! 〝最高〟〝最高〟〝最高〟! んじゃあ、これから一緒に〝遊園地〟で遊ぼう! ハッハッハ」
テンションが上がり笑いが止まらぬディーラー。
ここまでダンジョン攻略を楽しむプレイヤーは、八洲でも見たことがない。
クエスト参加が決定すると、ファルたちはディーラーに案内され広場へと向かった。
広場の端では、カフェで雨宿りをする7人のプレイヤーの姿が。
彼らもまた、ディーラーのクエスト参加者らしい。
「遊園地に行く〝準備〟は、できてるか?」
「はい! おもちゃの準備は万全です!」
「今回は、教会に眠る悪霊を退治する冒険者一同、という設定でやりましょう!」
「冒険者が〝悪霊〟退治か。悪くない。せっかくなら、その〝悪霊〟が魔王軍に操られた〝哀れな修道女たち〟、という設定も加えよう」
「分かりました!」
「分かりました!」
ロールプレイングを徹底するディーラーたち。
ディーラーと会話する2人のプレイヤーは、ディーラーと同じくファンタジー衣装に身を包んでいた。
おそらく彼らは、冒険者ギルドの一員であり、ディーラーの仲間なのだろう。
ところで、『悪霊』という単語にティニーが反応し、『魔王軍』という単語にミードンが反応した。
なんやかんやと、ラムダもティニーもミードンも、ディーラーワールドに合致しているようである。
「兄ちゃん嬢ちゃんたちも、ダンジョン攻略に参加するのか?」
冒険者ギルドメンバーとは違う、5人のプレイヤーのうちの3人――人の好さそうなおっさんプレイヤーたちが、ファルとヤサカに話しかけてきた。
ファルとヤサカは答える。
「ええ、参加します」
「掲示板で偶然、面白そうなクエストを発見したので、つい参加しちゃいました」
「お嬢ちゃんの気持ち分かるぞ。俺たちは3人組でいつも行動してんだが、最近は月並みなクエストに飽きちまってな」
「八洲でダンジョンクエストやってるって聞いて、八洲に行こうと思ってたんだがな。おっさんたち金がなくて……」
「そしたらエレンベルクでダンジョン攻略のクエスト発見。やるしかないだろ」
「ですよね。ダンジョン攻略なんてクエスト、やるしかないですよね」
「お! 兄ちゃんも分かってるじゃないか!」
3人のおっさんプレイヤーたちと話が盛り上がるファルとヤサカ。
すると、同じクエスト参加者のプレイヤー2人――若い女性2人が話に参加してくる。
「ダンジョン攻略って、報酬はお宝なんでしょ?」
「らしいな」
「私たち、2人でお店を経営してるんですよ。報酬のお宝、高く売れると良いなって思ってます」
「良いじゃねえか。暇を持て余したおっさんたちと違って、夢があって」
雨にも負けず、笑顔で語るプレイヤーたち。
ファルたちもその一員だ。
しばらく、そうやって会話をしていると、ディーラーの準備が終わったらしい。
能面を付けたディーラーの表情は分からないが、きっと彼も笑顔を浮かべていることだろう。
「さあ、〝ゲーム〟の時間だ。プレイヤーの君たち、一緒にクエストを〝楽しもう〟じゃないか。きっと〝楽しい〟ぞ」
ファルたち4人と1匹、プレイヤーたち5人、ディーラーたち3人。
今この場に、現実感覚はない。
ディーラーの用意したダンジョン攻略というクエストが、プレイヤーたちのゲーム感覚を呼び起こしたのである。
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