ミッション8—6 決闘 II
バグで岩の中に入り込んでしまったファル。
しかしこれはチャンスでもある。
ファルは試しに、ひとつの薬莢を岩の外側に放り投げた。
すると、薬莢は岩の外に飛び出る。
つまりこれは、岩の中からでもホーネットに攻撃ができるということ。
「フフフ、ホーネットめ、真の力に目覚めた俺にやられるがいい」
口角を歪ませ、ファルが持つ最も威力の高い武器――マグナム銃をホーネットに向けたファル。
ホーネットは未だ、ファルがどこにいるのか分かっていない。
銃口の先にあるのは、ホーネットの頭部。
この決闘、相手HPを20分の1にした時点で勝利が決定する。
マグナム弾を頭に撃ち込まれれば、ファルは確実に勝てる。
「もらった!」
おそらく今のファルは、とてつもなくゲスな表情をしていることだろう。
ファルはマグナム銃の引き金を引き、マグナム弾はホーネットに食らいつく。
これで間違いなく、ファルは決闘の勝者となるであろう。
相手がホーネットでなければ。
「Shit !」
驚くべきことに、ホーネットはファルの攻撃に勘付いた。
そして彼女は、この状況を口汚く罵りながら、スキル『耐弾性強化』を使用。
マグナム弾はホーネットに直撃しながらも、ホーネットのHPが20分の1を下回ることはなかった。
「ウソだろ! あれに耐えるのか!?」
「この声……岩の中!? 岩の中から攻撃してきた!?」
どうやら岩の中にいようと、声はホーネットの耳に届いてしまったようだ。
状況を察したホーネットは怒りを爆発させる。
「あんた、バグを利用するなんて卑怯じゃない!?」
「うるせえ! ここはゲーム世界だ! バグを利用するのもひとつの戦術だ!」
「呆れた……」
「ティニー、ラムダ、ホーネットのHPを100も削ればこっちの勝ちだ! 俺が岩の中から援護するから、攻撃しろ!」
《了解です! なんだかよく分かりませんけど、大暴れします!》
「岩の中から声。トウヤ、地縛霊みたい」
「あんたたち、それで勝ったつもり!? あたしをなめるな!」
怒りの力――ダークサイドの力を得たホーネット。
彼女は
バギーに乗らぬティニーに逃げ場はない。
ラムダもここで自走対空砲の攻撃を仕掛ければ、ティニーを巻き込んでしまう。
ファルの攻撃も、ホーネットの動きには追いつけない。
だがティニーは怖気付くことなく、SMARLの引き金を引いた。
引き金を引いたと同時、ホーネットがSMARLに手を当てSMARLを払いのける。
おかげでロケット弾は明後日の方向に飛んで行ってしまった。
一瞬、ティニーとホーネットの目と目が合う。
しかし次の瞬間には、ティニーはホーネットに腹を殴られ、気を失い、地面にうつ伏せに倒れる。
「1人目!」
ティニーを戦闘不能にしたホーネットの次の標的は、ラムダだ。
それはラムダも分かっており、彼女は自走対空砲を乱射。
対してホーネットは、バギーに刺さった剣を手に取り自走対空砲に接近する。
主人公補正でもされているのか。
ファルとラムダの攻撃は、ホーネットにかすりもしない。
自走対空砲の攻撃は地面を耕すだけ。
ついにホーネットは自走対空砲に乗っかり、ラムダがいる操縦席のハッチをこじ開けた。
「あ……! マズイです! これマズイです! あの、ホーネットさんよ、好きな乗り物あげるから許して――」
「2人目!」
「ぎゃああぁぁああ!!」
操縦席から引きずり出され、首を絞められ、気を失ったラムダ。
あっという間に決闘は1対1に。
岩の中にいるファルは、どうすることもできず銃を撃ちまくるだけ。
ホーネットは自走対空砲を奪い取り、2連装の35ミリ砲をファルが隠れる岩に向けた。
この時点で、ファルは決闘に勝つことを諦め、スキル『痛み緩和』を発動する。
ファルが隠れる岩は、自走対空砲の容赦ない攻撃に晒され、35ミリ弾に削られ、数秒で小石の集まりへと姿を変える。
崩壊した岩の中からは、呆然と立ち尽くすファルが姿を現した。
「3人目!」
自走対空砲の操縦席から飛び出したホーネットが、ファルの顔面を思いっきり殴った。
その瞬間、ファルの意識は吹き飛び、視界は真っ暗になる。
*
ファルが目を覚ましたのは、草原ではなくベッドの上であった。
いわゆる知らない天井を前にして、体を起こすファル。
すでに日は沈んでいるようだ。
どこかで見覚えのある部屋。
ベッドのすぐ側には、ヤサカがいた。
「あ、ファルくん! ようやく目が覚めたんだね!」
「ここは……パンフレットにあったホテルか?」
「うん、そうだよ」
「そうか。ええと、ティニーとラムダは?」
「ティニーは目を覚まして、今は別の部屋にいるよ。ラムは、ファルくんの隣のベッドでまだ寝てる」
「……決闘はどうなった?」
「ファルくんたちの完全敗北だったね」
「だよな」
ホーネットに殴られた頰をさすり、ため息をついたファル。
彼は正直なことをヤサカに言った。
「なあ、ヤサカの友達にこんなこと言うのもなんだけど、アイツどうかしてるぞ? あの暴れ馬、どっかに縛っておいた方が良いんじゃないか?」
「まったくだよ。でも大丈夫、ホーネットならそこに縛り付けておいたから」
ヤサカが指差した先には、椅子に縛り付けられたホーネットの姿が。
さすがヤサカ、分かってらっしゃる。
「ホーネット、ファルくんたちに言うことがあるんじゃないかな?」
ホーネットに対し、いつもの微笑みを浮かべるヤサカ。
しかしその目は笑っていない。
これにホーネットは背筋を凍らせながら、俯き気味に口を開いた。
「……決闘で勝ったのはあたし。だからあんたがヤサカの仲間だなんて、あたしは認めない」
「もう! ホーネット、言うことが違うよ?」
「……つい頭に血が上って、決闘なんか申し込んで、痛い目に合わせて――いろいろごめん!」
椅子に縛り付けられたまま、謝罪の言葉を口にしたホーネット。
彼女に続き、ヤサカもファルに謝罪した。
「今日はごめんね。虫がいいのは分かってるけど、ホーネットを許してくれないかな? ホーネットにはキツく言っておいたから」
申し訳なさそうな表情をするヤサカにそこまで言われてしまうと、許さないわけにはいかない。
いや、そもそもファルは、ホーネットに謝罪など求めていないのだが。
「はぁ……はいはい許す許す」
「え? そんなにあっさり許してくれるの? あたしは、あんたを理不尽に殴ったのに?」
「理不尽じゃないだろ。俺が迷惑プレイヤーを増加させた元凶なのは確かだ。それが理由でゲーム好きに決闘を申し込まれても、これは仕方がないことだし、殴られるのも当然だろうからな」
「…………」
「それに、見た感じヤサカからこっぴどく叱られたみたいだしな」
「……変なヤツ」
理解ができないといった風に、口を尖らせたホーネット。
今度は心からの微笑みを浮かべるヤサカ。
ファルはホーネットに質問した。
「ところで、俺たちは決闘に負けた。で、お前は俺たちをヤサカの仲間と認めないことになった。お前的には、俺たちはどうすりゃ良いんだ?」
「別に、好きにすれば。あたしが認めないだけで、ヤサカはあんたたちのことを仲間だと思ってるみたいだし。レジスタンスを捨てたあたしが、今のレジスタンスに文句も言えないし」
「なんだそりゃ」
「ヤサカも変わってるよね。パンツ見てくるようなヤツを仲間にするなんて。やっぱり虫好き、好みがゲテモノ」
「ちょっとホーネット!? 変なこと言わないでよ!」
「あれ? なんで俺がヤサカのパンツ見たこと知ってんだ?」
「寝言で言ってた。ヤサカのパンツの色は――」
「やめろ!」
「やめて!」
焦りに焦るファルとヤサカ。
ホーネットはケラケラと笑うだけ。
ファルたちとホーネットの決闘は、なんの意味もなかったのだ。
無理やりに意味を持たせるとすれば、ホーネットがファルたちのことを知る良い機会になった、ということだけだ。
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