ミッション8—4 迷惑プレイヤー増加の原因

 いきなりホーネットから怒りの感情を向けられたファルとティニー、ラムダ、ミードン。

 3人と1匹は顔を見合わせる。

 

「迷惑プレイヤーを増やした責任? なあ、あいつは一体全体なにを言ってるんだ?」


「分かりません! ヤーサのお友達じゃなかったら、間違いなく頭のおかしな人としか思えません!」


神様ファルたちは何も悪いことはしていない! この未来の英雄ミードンが言うのだから確かなのだ! にゃ!」


「きっと言いがかり。トウヤは迷惑プレイヤーを増やしてない。変態なだけ」


「まったくフォローになってないぞティニー。俺はそこまで変態じゃないぞティニー」


「でも、ずっとホーネットの脚を見てる」


「そりゃ見るだろ。あんなにすらっとした長い脚、見ない方がどうかしてる」


「やっぱりトウヤは変態」


 ホーネットそっちのけのファルたち3人。

 これにホーネットは、ファルに向けた人差し指を震わせ叫んだ。


「あんたたち! あたしの言ってることが間違ってると思うなら、あたしに反論しなさいよ! なに勝手に3人で盛り上がってんのよ!」


「いやだって、あんまり変なこと言うから、相手しない方が良いと思って」


「はあ!? 言っとくけど、変なのはあんたたちだから! 迷惑プレイヤーを増やしてるあんたたちの方がおかしいから!」


「さっきから俺たちを迷惑プレイヤー増やしてる元凶みたいに言ってるけど、勘違いだぞ。俺たちはそのコソ泥2人組を捕まえようとしてたんだぞ?」


「OK,OK、嘘つくならもっとうまい嘘つけば」


「嘘じゃない!」


「嘘じゃないとしたら、ひどいマッチポンプね」


「なんなんだよお前! 話が通じない系か?! ホントにヤサカの友達か?!」


 すでにヒートアップしたホーネットと、少しずつヒートアップするファル。

 ラムダは笑顔を浮かべながらもホーネットを睨みつけ、ティニーはSMARLスマールを手にしている。

 路地裏に響く言い争いは、まさに一触即発の雰囲気。


 仲間と友達の喧嘩に困り果てたのはヤサカだ。

 彼女はこの雰囲気に耐えられず、2人の間に割って入った。


「2人とも落ち着いて。ホーネット、ファルくんたちは私たちレジスタンスの仲間だよ。迷惑プレイヤーを増やしたっていうのは、きっと何かの勘違いだよ」


「その通り」


「レジスタンスの仲間? こいつらが? ヤサカ、こいつらに騙されてない?」


「騙されてなんかないよ。ホーネット、迷惑プレイヤー増加の件、詳しく教えてくれないかな?」


 ホーネットの手を取り、微笑みながらそう言ったヤサカ。

 大きなため息をついたホーネットは、一転して淡々と説明をはじめた。


「最近、警察官NPCを倒すと経験値稼ぎになるっていう噂が、ベレルで広まってる。それを知った一部のプレイヤーたちが、警察官NPCに喧嘩を売ってるの。きっとこの強盗も、そういう迷惑プレイヤーの仲間」


 どこかで聞いたような言葉がホーネットの口から次々と飛び出してくる。

 内心ざわつくファル。

 ホーネットは説明を続けた。


「どこからそんな噂が伝わってきたんだろうと思って、あたし、ちょっと調べてみたんだ。そしたら、八洲で起きた2回の暴動が噂の出所だった」


 話の流れがまずい。

 今すぐにでも逃げ出したいファル。


「イミリアに大迷惑をかけた暴動。これを扇動したのは誰だろう? そう思って調査を続けたら、3人のチート使用者が浮かび上がってきた。和服姿の少女ティニー、胸の大きな少女ラムダ、そして目つきの悪いニヤけた少年ファル。つまり、あんたたち」


「ニヤけてないから! 目つきも悪くないから! 誰だそんな風に俺たちのこと伝えたヤツは!?」


「ファルさんよ、たった今、自分が元凶なこと認めちゃいましたね!」


「あ……」


「やっぱり、あんたたちが例のチート使用者ね! もう一度言う! 迷惑プレイヤーを増やした責任、取ってもらうから!」 


 なんということでしょう。

 ホーネットの言葉は言いがかりではなかったのです。

 間接的とはいえ、ファルたちは実際に、ベレルでの迷惑プレイヤー増加の元凶となっていたのです。


 さて、困ったことになった。

 わざとではないが、ファルたちは迷惑プレイヤー増加の元凶になってしまった。

 反論に困ったファルだが、ヤサカが助け舟を出してくれる。


「ホーネット、八洲での暴動は仕方がなかったんだよ」


「仕方がなかったって……どういうこと?」


「実はファルくんたちはね――」


 首をかしげるホーネットに、ヤサカは説明した。

 ファルたちの正体、サルベーション、レジスタンスの現状、プレイヤー救出の方法、暴動を起こした理由。

 説明できることはすべて、説明した。


「――ということなんだよ」


「そんな……」


 ヤサカによる完璧な説明に、言葉を失ったホーネット。

 彼女は相も変わらず敵意のある視線をファルに向けながら、先ほどよりは落ち着いた口調で言う。


「あんたたち、本当にプレイヤー救出のためにログインしてきたの?」


「ああ、ヤサカの言ったことが真実だ」


「そうですそうです! ヤーサは嘘つかないです!」


「ヤサカを信じて」


「…………」


 未だに何かを言いたそうなホーネットだが、彼女は何も言わない。

 ファルはさらに畳み掛けた。


「ベレルで迷惑プレイヤーが増えたのは、確かに俺たちが要因かもしれない。だけど俺たちは、プレイヤーを救出しようとしてるだけだ。迷惑プレイヤーの増加はプレイヤーたちの勝手、俺たちの知ったことじゃない」


 むしろプレイヤー救出のためには迷惑プレイヤー増加は歓迎だ、とは言わない。

 それを言ってしまえば、おそらくホーネットはまた怒り出してしまうだろう。


 ファルたちのことは信用できずとも、ヤサカの言うことは信用したホーネット。

 さすがに友達の言うことは否定できなかったようだ。

 その上で、ホーネットはファルに質問した。


「……そう。じゃあなんで、この強盗2人を捕まえようとしたの? 迷惑プレイヤーを増やしたいなら、放っておけばよかったじゃん」


「言われてみればそうだな。なんで捕まえようとしたんだろ……」


「分かんないの!?」


「ああ。たぶん、プレイヤー救出のためならいくらNPCに迷惑かけようと『コラテラルダメージだ』で済ませられるが、そうじゃない迷惑行為は許せない、って思ったんだ。たぶんな」


「あんた、自分勝手ね」


「そうかもな。だけど、大義名分すらない迷惑行為が許せない気持ち、お前なら分かるだろ?」


「まあね」


 きっと、この場で最も正しいことを言っているのはホーネットなのだろう。

 いくらゲーム感覚とはいえ、いや、ゲーム感覚だからこそ、チートや荒らし行為は許されざる行為。

 これを糾弾するのは、プレイヤーとしては正しい姿だ。


 とはいえ、イミリアは普通のゲーム世界ではない。

 ゲーム世界にあって然るべきログアウトが不可能になったゲーム世界なのである。

 ファルたちは、イミリアをゲーム世界としてあるべき姿に戻すため、チートを使い、荒らしも同然の行為に勤しんでいるのだ。


 こうした事情が伝わったのか、ホーネットはファルたちの行為を糾弾するのをやめた。

 

「OK、ヤサカを信じて、迷惑プレイヤー増加については許してあげる」


「どうも。助かるよ」


「これでホーネットさんもわたしたちの仲間です!」


「仲間? 勘違いしないでよ。仲間って認めたわけじゃないから」


「何か、不満?」


「不満に決まってるでしょ! どんな理由があっても、あたしはチート使用者を許さない。何より、あんたたちがヤサカの仲間だなんて認めたくない」


「おいおい、まだ怒ってるのか? 今度はなんだ?」


「私の霊感が嫌な予感を告げてる」


「ファル! ティニー! ラムダ! チート無しであたしと決闘しなさい! あたしに勝つことができたら、あんたたちを認めてあげる!」 


「断る」

「イヤです!」

「嫌」


「即答!? 何よ! このプロゲーマーホーネットに恐れをなしたの!?」


「プロゲーマー? なんなんだよお前。面倒くさいヤツだな」


「面倒とか言うな! いいから決闘しろ!」


 決闘を断られ、幼児のように地団駄を踏みはじめたホーネット。

 呆れたファルとティニー、ラムダは、ヤサカに助けを求めた。


「おいヤサカ。お前の友達だろ。なんとかしてくれよ」


「ホーネットの友達として言わせてもらうと……あの状態のホーネットは、もうどうすることもできないんだよね……」


「マジかよ」


「マジだよ。なんか、ごめんね」


「いや、ヤサカが謝ることじゃない」


 どうやらヤサカもお手上げ状態。

 こうなれば、ファルたちにできることはひとつだけ。


「よしホーネット、その決闘受け入れた」


「私の霊力に勝てる?」


「やりますよ! やるからには本気出しますよ!」


 ほとんど事故のような決闘を受け入れたファルたち。

 面倒ではあるが、これ以外にホーネットを落ち着かせる方法がないのなら、仕方がない。

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