3-16 転職
レオンは物理攻撃、アルベルトは
けれど、なんでもできる――というのは、なんにもできないということでもある。
本当はわかっていた。もっと上に行きたいなら、
わかっていたのに、自分を変えられなかった。器用貧乏の「器用」の部分に愛着があった――「貧乏」が本質なのに。
もっと早く決断していれば、レオンに頼り切りという状況も変えられたかもしれない。まぁ、今さら悔やんでも仕方ない。
俺は、
「○○になりたいです」と申告すると、神官が「よかろう。今日からおぬしは○○として生きていくことになった。精進するがよい」とか言って、その職業にしてくれる――みたいな場所ではない。
多種多様な指導者たちが集まった集合住宅だ。転職もできるぐらい充実しているという意味で、必ずしも転職専用の場ではない。
一フロア六区画で、地上五十階立て。力のある指導者ほど上の階を使える――ということに表向きはなっているけれど、その「力」というのは指導力ではなく経済力だとも言われている。
「お兄さんお兄さん!
やんわりと断りながら歩いていく。
客引きの男は「ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん!」と、古いギャグのようなことを言いながら追ってくる。
算術を習いに来たはずの商人の息子が棒術と歌とアロマテラピーを習って帰っていった――なんていう冗談みたいな話もザラにある。客引きをうまくかわしていかないと当初の目的を見失う。
「君、東洋の剣術を学んでみないか? つい昨日、神代島からシューサク先生が来られたばかりなんだ!」
「釣りを知れば人生が豊かになるぞ」
「ヌンチャク教えるヨ。ホワチャー! って振り回すだけ。簡単ヨ」
「生け花に興味ありませんか?」
「まるくてやわらかい謎の生き物を召喚して癒されたい人はこちらにお集まりくださ~い」
「野球やろうぜ!」
次から次へと、キリがない。
塔を見上げると各階の窓からは「生徒募集」の旗や垂れ幕が出ていて実にカラフル。目がちかちかする。
ここの指導者の中には、俺のような元冒険者も結構いるらしい。大した実績もないくせに、さも優秀な冒険者だったかのように騙って、うぶな若人たちにテキトーな技を伝授する。ボロい商売だ。ひどいのになると
さて、どうにかしてまともな魔法の先生を探さないと……と、慎重にあたりをうかがっていると、不意に名前を呼ばれた。
「エバンス君、エバンス君!」
声のしたほうを見ると、歩くのさえ大変そうなほどでっぷりと太ったおばさんが手招きしていた。
「私よ、私! 覚えてない?」
「……すいません、人違いじゃないでしょうか」
申し訳ないけれど、一切記憶にない。
でも俺の名前を知っているのはどういうことだろう。
「あ、そっか! じゃあちょっと目を閉じて声だけ聴いてみて!」
「はぁ……」
「〝おはようございます〟!」
あ、わかった。
「久しぶりね! すっかり大きくなって!」
「先生も、その……」横方向に、すっかり。
「あ、違うの! これはその、色々あってこうなったの!」
「……でしょうね」どんな結果にも原因はある。
「レオン君たちとのパーティー、解散したって聞いたけど」
「ええ、まぁ、こちらも色々あって」途中経過は省こう。「他の奴と組んで、一からやり直すことにしたんです」
「そう。それで修行も一からやり直そうってことね。立派だわ!」
体型はすっかり変わってしまったけれど、先生は先生だった。周りが引くぐらいのポジティブなオーラ。ものすごくハキハキとした喋り方。
「ところで、どんな指導者をお探し?」
「えっと、俺、
「ほほう!」と、先生の目がキラリと光った。「それならうってつけの人物を紹介するわ! なにを隠そう、この私よ!」
「……」いい先生だったのは確かだけれど……「先生、なんでここにいるんですか?
「つもる話は中でしましょう! とりあえず、ついてきて!」と言って、クララ先生はぐいぐいと俺を引っ張っていった。
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