第9話

 美紗が連れていかれたのはどこかの廃工場。

「カンパーイ!」

「おい火ぃくれ」

 縛られた美紗の前に他校の不良がたむろっている。

 制服をだらしなく着崩し、未成年なのに飲酒やタバコを吸い、バカ騒ぎしている。

 美紗は不良達が見ていない間に縄をほどこうと暴れているが、全くほどける気配はない。

「ぷはっ!」

 ただ手ぬぐいがずれ、口は自由になった。

「お前ら結構な上物ゲットしたな」

「だろう。ちょうど誘拐用の縄があったからな」

「誘拐のおかげで金も稼げたし、女もヤれたし、最高だよ」

「顔隠したけど、バラさないように顔ボコって喋らないようにしたしな。今も病院だっけ?」

 飲酒、喫煙だけでなく、誘拐、強姦、暴行まで笑いながら話す……美紗は身の危険を感じた。

「これバレたら人生終わるよな」

「大丈夫だよ。パパがいるし、それとも昔みたいに与 覚夢のせいにすればーー」

「ちょっと!」

 不良の言葉に覚夢の名前が出てきた。

 美紗はそれを見逃せず、声を出してしまった。

 不良達は振り向き、ピアスや刺青をした不良集団の中で一際目立つ、顔立ちが整った優等生風の男が美紗に近づいた。

「あれ~起きたんだ」

「あなた今『与 覚夢のせいに』って言ってたよね! サトム君に何したの!?」

「何? 与の知り合い? めんどくさいことになったな……」

「答えて!」

「うっせぇ!」

 ガン!

 男は横になってる美紗の顔すれすれを蹴った。

「俺に命令してんじゃねぇよ」

「…………」

 男は今にも殺しそうな目で美紗を睨み付け、美紗は言葉が出なかった。

 男は殺意をなくし、笑顔になった。

「教えてあげる。あいつはね中学時代にカツアゲしてたときに、ボコられたんだよね。そんでムカついたから警察署長やってるパパに泣きついて学校に訴えてもらった。あと今までのやってきた事を与の指示ってことにしたり、カツアゲした奴を脅して話を合わせてもらったり、奴の家族や友人に嫌な噂を流しまくったりーー」

 男のやって来たことに美紗は血の気が引いた。

 ただカツアゲを邪魔されただけでここまでやるのかと。

「どうしてそこまで……」

「ムカつくんだよ! あの善人面が!」

 男は情緒が不安定なのか、笑顔だったのが、いきなり怒りの表情を見せた。

「聞いたらあいつ、昔っから人助けとかしてたみたいで、そんな正義の味方ぶった奴、殺したいほどムカつくんだよね。やっぱ犯罪が一番楽しいだろ! なぁ皆!」

『フウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』

 この場にいる不良達がテンションを上げ、叫んだ。

 美紗は思った。

 こいつらはヤバい……犯罪をゲームのようにスリルを楽しみ、人を傷つけることを喜ぶ奴等だと……。

「はーい、こん中で犯したい人ー」

「「「はい!」」」

 男の言葉に不良数人が手を挙げた。

 その手を挙げた不良達は美紗に近づいた。

「さーてどうしようかな? 輪姦からの顔面ボコり、そろそろ初めての殺人でもしちゃおうか」

 男は嬉々とした表情で恐ろしいことを言っている。

 美紗は身の危険を感じ、逃げようとするが、縄で動けない。

 不良が美紗のYシャツをつかみ、そのYシャツを破こうとしたその時ーー。

「先輩!」

 いきなり聞こえた声に全員が振り向いた。

 そこにいたのは覚夢だった。

「サトム君……どうして」

「社長から電話で帰って来ないと言われたんで、走った方を探してたら、騒音が聞こえたんでここ……に……」

 覚夢が優等生風の男を見た途端、顔色が悪くなった。

「おーおー久々じゃん。ヒーロー気取り」

「田中……」

 覚夢は過去のトラウマを思いだしたのか、胸を押さえながら身を震わした。

「ずいぶん震えてるね。友達にも教師にも親にも見放されたことを企てた張本人の前だからね~」

 優等生風の男こと田中は下卑た笑みを浮かべた。

「ちょうどいいや、またお前のせいにしようとしてたし」

「え……」

「俺達はこの子を犯してお前をボコる。そうすれば俺達がこの子を犯してた所を助けて、正当防衛でボコったってことに出来る」

「だったら助けーー」

「助けを呼んでも無駄だよ。この廃工場の周りは誰もいないし、人通りもない」

「そんな……」

「抵抗してもしなくてもお前の人生終わったなアハハハハハ!」

 田中、そして不良達は覚夢を嘲るように笑った。

「さてと、やれ」

『おぉーーーーーー!』

 不良達は雄叫びをあげ、覚夢に近づいた。

「おっら!」

「ぐふっ!」

 不良の一人が覚夢の腹を殴った。

「おらっ!」

「ぐふっ!」

「くそがっ!」

「がっ!」

 そして一人、また一人と不良は覚夢を囲み、素手や鉄パイプで殴る。

「アハハハハハ! やっぱいいね! 人がやられていく姿を見るの!」

 狂ったように笑う田中。

 覚夢は何もせずに殴られる。

 信じてくれなかった家族、友人から逃げ出すように引っ越したのに、またあの日に戻ってしまう……覚夢は。

 せめて美紗だけでも助けたかったが、過去のトラウマのせいで体が思うように動けなかった。

 殴られ続けて数分、覚夢は顔中にアザ、口から血を出し、体をふらつかせる。

「だっしゃあ!」

「ぐっ!」

 不良の鉄パイプが覚夢の頭上に振り下ろされ、覚夢は倒れた。

(もう終わりか……)

 覚夢は絶望したまま意識を失おうとした。

「戦って!!」

 だが、美紗の大声が覚夢は意識を保らさせた。

「え……」

「サトム君、こいつらの好きにさせちゃダメだよ」

「先輩……」

「たとえサトム君が周りから犯罪者と言われても、誰にも信じてもらえなくても、私はどんなことがあっても信じてる! 味方でいる! だから……助けて!」

 美紗は涙を流しながらそう言った。

「…………!」

 その言葉に覚夢の心にかつてない程響いた。

 ずっと誰にも信じてもらえず、味方がいなかった覚夢にとってその言葉は今まで待ち望んでいた言葉かもしれない。

「何? 俺の嫌いな悲劇のヒロイン気取りか? あぁ!?」

「ぐっ!」

 田中が苛立った表情で、美紗の髪の毛を引っ張った。

「おい、もう動けないだろうし、この子ヤっちまーー」

「うぉっら!!」

 ゴン!

「ごはぁ!?」

 田中は吹っ飛んだ。

 不良達が田中の呼び声によそ見をしている間に覚夢が美紗の所に向かって走りだし、顔に向かって思いっきり殴ったからだ。

「ありがとうございます先輩」

「サトム君……」

 覚夢は不良達から美紗を守るように前に立ちはだかった。

「俺……戦います!」

 一人でも信じてくれる味方がいる。

 その存在が覚夢に勇気と戦う力をくれたのだ。

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