第5話

 辺り一面黒い空間、そこからどんどん人が現れる。

『全部与君の指示で動きました~』

『僕は与君が暴力をふるっているのを見ました』

『与ってとんだ偽善者野郎だな』

『お前なんて生まれて来なければよかった』

「うあっ!! はぁ……はぁ……」

 覚夢はワンルームの布団の上にいた。

「夢か……」

 覚夢は夢を見ていた。

 悪事を覚夢のせいにした不良。

 助けたのに裏切られたクラスメイト。

 影で悪口を言った他の生徒。

 そして蔑んだ目で生まれたことを否定した父。

 そんな人達の姿や罵声が出て来た悪夢だ。

「助けたからか……」

 この夢を見た理由はわかっていた。

 ヒーローに憧れて人を助けていた昔。

 それにより学校や家に居場所がなくなった。

 この前ジョアをスライムから守った……人を助けたから昔を思い出し、この夢を見てしまったんだと覚夢は思った。

「はぁ……」

 覚夢はたれた汗をぬぐい、再び目を閉じた。



 ***



 翌日、学校の昼休みのことーー。

「おい与」

 トイレに行こうとした覚夢は同じクラスの男子に声をかけられた。

「何?」

「お前、結城先輩と付き合ってるのか?」

 男子の質問は美紗についての質問だった。

 学校のアイドルである美紗。その美紗に好意を寄せる男子がいてもおかしくない。

「……ただバイトが一緒なだけ」

 覚夢は普通に正直に答えた。

「バイト?」

「先輩が体力がある帰宅部の人を探してて、たまたまいた俺が誘われた」

「じゃあ付き合ってはないんだな? 好意はないんだな?」

「ない」

「そうか……いやでも、ゆくゆくはそんな関係に……」

 男子が安心したと思ったらブツブツと言い始めた。

「?」

「……負けないからな!」

「? ?」

 そう言って男子は走っていってしまった。

 覚夢は何がなんだかわからなかった。



 ***



 その日のバイトの異世界でーー。

「たのもう!」

 誰かが「地球堂」のドアをたたいた。

「はい」

 覚夢がドアを開けると、そこには革の鎧をつけた若い男性だった。

「いらっしゃいませ」

「お前に用はない! 女神を出せ!」

「え?」

 来て早々客に無理難題を言われた。

 覚夢は困り、イスに座ってる真奈に知らせた。

「社長、なんか女神を出せって言ってんすけど」

「女神? 知らん、追い出せ」

「さすがにそれは……」

「どうしたの?」

 二人が話していると、美紗が奥のドアから現れた。

「おお我が女神よ!」

 男性が勝手に部屋に入り、美紗の前に跪いた。

「あなたはこの前のーー」

「この前? あ、あのスライムの」

 覚夢は思い出した。

 この男性はいきなり現れ、自己紹介の途中でスライムの餌食になった哀れな男だ。

「皆この人のこと忘れてたでしょ」

「ああ……そうっすね」

「私思い出して、戻って宿屋で介抱したの。そしたらーー」

「あなたが助けがなければ、俺は命をなくしていた。まさにあなたは女神!」

「あはは……」

 美紗は愛想笑いをしてるが困っている様子。

「えっと、それで何の用で?」

「俺と付き合ってくれ!」

「えぇ!?」

 男性は美紗に手を差し出し告白した。

 それには美紗も驚いた。

「俺はいずれ最強の冒険者になる! そして街一番の金持ちになる! かなりの有料物件のはずだ!」

「すごい自信っすね」

 男性はかなりの自信家らしい。

「ごめんなさい。私あの人と付き合ってるの」

「え!?」

 そう言って美紗が指差したのは覚夢だった。

「え?」

 美紗の言葉に男性も覚夢も驚いた。

 男性が覚夢の顔を見た時、美紗は覚夢に向かって手を合わせた。

 これは「お願い、話を合わせて」ってことだろうと覚夢は悟った。

「お前付き合ってるのか」

「え、あ、はい」

 覚夢がぎこちなく肯定すると、男性は睨み付ける。

「お前名は?」

「あ、与 覚夢です」

「アタエ、俺と勝負しろ!」

「「えぇ!?」」

 男性の決闘の申し出に覚夢と美紗は驚いた。

「俺が勝ったら彼女は俺がもらう!」

「ちょっと待って! いきなり決められてもーー」

「大丈夫、俺は絶対に負けはしない!」

「そうじゃなくて!」

 結局男性は聞く耳を持たず、覚夢と勝負をすることとなった。

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