第4話

 覚夢達は手に汗を握りながら身構えた。

 謎の気配が丘を登り、その姿を現した。

 プルン、プルン

「……え?」

 それは柔らかそうな水色の饅頭のような形の物体……スライムだった。

 そのスライムが跳び跳ねながらこっちに向かっている。

 覚夢はスライムの登場に拍子抜けした。

「来るぞ! 絶対街に近づけるな!」

「サトム君! ギルドに報告して冒険者を集めるよう伝えて!」

「え? 、え?」

 女性達はスライムに近づかず、恐れている様子だ。

 覚夢は自分と周りの温度差に戸惑っている。

「あの先輩、これってスライムっすよね? 危険なんすか?」

「ここのスライムをゲームの雑魚と一緒にしないで! こいつは見た目と違ってドラゴンと対等に並ぶ強敵なの!」

「そうなんすか?」

 覚夢は美紗の言葉が信じられなかった。

「ええ、スライム一体で百人の冒険者が命を落としたの」

「まじっすか!」

 覚夢は驚いたが、まだ半信半疑だ。

「ふん! だらしねぇな!」

「?」

 突然後ろから声が聞こえ、振り向くとそこには革の鎧をつけ、短剣を持った若い男性がいた。

「誰?」

「俺はいずれ最強の冒険者になる男! その名もがっ!?」

 スライムが自称最強冒険者の顔に飛びかかった。

「むー! むー!」

 冒険者は顔についたスライムを持ってる短剣で刺しても、殴ってもすり抜けてつかむことが出来ない。

「む……」

 ベチャ!

 そして冒険者は手をブランと下げ、頭から倒れた。

 スライムが離れると、冒険者は白目をむいて、鼻や口から水色の液体を出した。

「これがスライムの力だ。切っても殴ってもすりぬける上に、体内の水分で溺れさせる。ドラゴンもそれで倒したという伝説もある」

「おお……」

 ジョアの説明で覚夢は改めてスライムの恐ろしさを知った。

「ちなみに分裂しても元に戻るし、火も体温が上がるだけで死なない」

「じゃあどうするんすか?」

「奴は人里に現れるのは食べ物が目的だ。奴は雑食だから人も食べる。あの冒険者は運がいい」

「食べ物っすか」

「幸いさっき倒したゴブリンがある。それを使ってスライムを遠ざけよう」

「二人とも、あれ!」

「あれ? ……あ!?」

 美紗の声に振り向くと、スライムがゴブリンの山を補食していた。

 スライムが一匹ずつゴブリンを取り込み、山のように積まれたゴブリンはもういなかった。

 スライムがブルブルと小刻みに震えると、スライムはどんどん大きくなり、人間三人分の高さまで大きくなった。

「まずいぞ……スライムが大きくなってしまった。おい皆! ってあれ!?」

 美紗とマージがいつの間にか遠くの木の陰に隠れていた。

「二人とも、スライムを引き付けて街から遠ざけて!」

「ガンバ」

「えぇ!?」

「お前らぁ!」

 美紗とマージは覚夢とジョアを囮にした。

 ドスン! ドスン!

 巨大になったスライムは覚夢とジョアに向かった。

「仕方がない、行くぞサトム!」

「う、うっす!」

 覚夢とジョアは街の反対側に向かって全力で走った。

 巨大になり、重量感が増したスライムは、跳ねるごとに地面が揺れる。

「ジョアさん、大丈夫すか!?」

「はぁ……はぁ……」

 覚夢は作業着だけだが、ジョアは全身鎧を装着しているため、速さは覚夢と変わらないが、息が切れるのが早かった。

 スライムも異様に早く、徐々に二人に追い付いてくる。

「も、問題ない。機動力に不向きだが、長年愛用して来たこの鎧、逃げ切ることぐらい造作もーー」

 ガッ!

「んがっ!」

 そう言った矢先、ジョアが石につまずき転んだ。

「ジョアさん!」

「く……」

 ジョアが起き上がった時にはもうスライムが目の前にいた。

 スライムに飲み込まれてしまう……ジョアはそう覚悟していたその時ーー。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「!」

 覚夢がスライムに向かって突っ込み、そのままスライムの中に入ってしまった。

 体内に覚夢が入ったスライムはジョアの目の前で立ち止まった。

「サトム!」

「ジョアさーん!」

 美紗とマージが遠くから声をかけた。

「大丈夫ですか!」

「サトムが……サトムが私をかばってスライムの中に!」

「嘘……」

 ジョアの報告に美紗の顔が青くなった。

「どうしよう……」

 美紗は気が動転したのか、涙を浮かべながら頭を抱えた。

「マージ! 火の魔法でスライムを蒸発させろ!」

「無理……」

「無理でもやってくれ! じゃないとサトムがーー」

 ドシーン!

「「「!?」」」

 ドシーン! ドシーン!

 スライムが突然地団駄を踏むかのようにその場に跳び跳ねて暴れだした。

 そして高く跳び、地面に降りたその時ーー。

 ビシャー!

 まるで水風船のようにスライムが破裂した。

 辺り一面破裂したスライムの体液で溢れ、ジョアもそれを浴びた。

 そしてスライムがいた所に覚夢が立っていた。

「「サトム(君)!」」

 美紗達が覚夢の元に向かった。

「大丈夫なのか!」

「なんとか……」

「一体どうやって?」

「これ……」

 覚夢が持っていたのは赤いグミ状のなにかの欠片だ。

「これは?」

「多分、スライムの心臓っす」

「えっ!?」

「スライムに飛び込んだら中から出られなかったんで、どうしようと思ったらこの赤いのがドクンドクンと動いてたんす。それで泳いで近づいて、両手でつぶしたら、これ……」

「すごいよサトム君!」

 美紗が覚夢に抱きついた。

「ああ! おかげで街の危機が救われた!」

「すごい」

 女性達が覚夢を褒め称えた。

「あ、ありがとうございます」

 だが覚夢はなぜか浮かない顔をしていた。

「サトム君?」

「あ、いえ……これでゴブリンの分、挽回出来ましたかね?」

「ゴブリンなんて比じゃないわ! 今回の功労者はサトム君ね」

 こうしてトラブルがありつつも、覚夢の初仕事を終え、皆は帰った。

 ちなみにスライムにやられたあの冒険者は忘れ去られていた。

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