第3話

 覚夢のバイトが決まった翌日の放課後。

 美紗は覚夢の教室に来てくれた。

 学校のアイドルの美紗がぼっちの覚夢と一緒に歩いたことで教室はざわついたが、二人は気にせず並んで歩いていった。

 二人が来たのは学校のトイレ。

 二人は別れ、それぞれトイレのドアに金色の鍵を突き刺すと、ドアがユラユラと揺れ

る 。

 ドアを開け、覚夢は中に入るとそこは最初に来た部屋だった。

 前と比べて明るく、片付けられている。

「来たかサトム」

「うっす」

 白いYシャツの上に青い作業着らしき上着を羽織った姿で真奈が階段から降りて来た。

「ほい、お前のユニホーム」

「うっす」

 真奈が同じような作業着を覚夢に投げ、覚夢は受け取った。

 作業着は青い生地に背中に地球の絵が描かれたシンプルな物だ。

 覚夢は制服のブレザーを脱ぎ、青い作業着に着替えた。

「お、似合ってるよサトム君」

 同じように青い作業着を着た美紗が二階から降りてきた。

「今日からお願いします」

「ああ、早速だが仕事に行ってもらうぞ」

「私達だけ?」

「あとマージとジョアがいる」

「ああ……あっち系か」

 いつも元気な美紗が微妙な顔をした。

「場所は南の草原だ。行ってこい」

「うっす」

 真奈は覚夢にこの街の地図を渡し、二人は出発した。



 ***



 二人が来たのは丘で少し凹凸があるくらいで何もない広い草原である。

「先輩、ここで何があるんすか?」

「ああ、それは……」

「ミサ!」

 覚夢の後ろから現れたのは、背が高く鎧をつけた金髪の女性と、黒いフードを被った背が低い女性だ。

「準備が遅くなってすまない……ん? その男は?」

「今日から入ることになったサトム君よ」

「君がそうか。私はジョア、君の同僚で剣士だ。彼女はマージで魔法使いだ」

「ん」

 マージというフードを被った女性は軽く手を挙げ、ジョアという鎧の女性は握手を求め、覚夢は握手した。

「お願いします。この世界の人も雇ってるんすね」

「うん、うちの従業員は私達とお姉ちゃん以外この世界の人なの」

「へぇ、それで今回は何の仕事なんすか?」

「ゴブリンの討伐だ」

「……は?」

「今回はギルドに頼まれてなーー」

「えっとね、ここにはギルドっていう仕事を斡旋してくれる所があってね。そこで仕事をもらうのが冒険者でーー」

「うむ、そのギルドで冒険者がゴブリン討伐をしないからゴブリンが増えてしまったんだ

 美紗とジョアが説明してくれているが、覚夢の問題はそこではない。

「先輩、初めての仕事がモンスター討伐ってハードル高くないすか?」

「そうなんだけど……大丈夫だよ!」

 何の根拠もない美紗の自信に覚夢は戸惑った。

「サトム、君は得意な戦い方はあるか?」

「え、一応昔は格闘技を……」

「格闘か……ならこれだな」

 どこから持ってきたのか、ジョアの後ろにある大きな木箱から何かを取り出し、覚夢に手渡した。

 それは鉄製のグローブだった。

「これは私が使う籠手よりもより固く、だけど軽く仕上がった優れ物だぞ」

「はぁ……」

 異世界に来て多少の覚悟をしたが、覚夢は内心怯えながら、鉄のグローブをつけた。

「来る」

「え?」

 ビュン!

 マージが小声で何かをしゃべると同時に、後ろを振り向いた覚夢の背中に向かって何かが当たった。

 キン!

 だが覚夢が着ていた青い作業着がそれを弾いた。

「……え!?」

 覚夢がいきなりの衝撃に振り向くと、落ちていたのは矢だった。

「俺、当たりましたよね……矢」

「大丈夫、その作業着はドラゴンのわずかしかない体毛で作られたやつで、こう見えて鉄並みに固いのよ」

 美紗は笑顔でそう言うが覚夢の顔が青く、心臓がバクバクだ。

「さあ来るぞ!」

 ジョアが剣と盾、マージが杖を構え、美紗は木箱から弓矢を取りだし、戦闘態勢に入った。

 向こうから現れたのは小柄の体型の緑色の肌をした醜い顔の集団。それはまさにゴブリンの大群だった。

 木の棍棒や弓矢、短剣などの武器を装備している。

「ゲギャギャギャギャ」

 ゴブリン達が走り出した。

「よし、援護を頼むぞ!」

「ん」

「はい!」

 女性三人も攻撃を開始した。

「はあ!」

 走り出したジョアは先頭のゴブリンに切りつけた。

 ゴブリン数匹がジョアに襲いかかるも、盾と鎧で防ぎ、体を回してそのゴブリンを一気に切った。

「~~~~~……ファイアボール!」

 マージが前半聞こえないほどの小声で呪文を唱え、技名だけ大声で叫んだ。

 杖の先端から放たれた火の玉はゴブリンを燃やした。

 それと同時に美紗が弓を引き、放たれた矢がゴブリンの頭に当てる。

 女性達が戦う中、覚夢はどうすればいいかわからず、棒立ち状態である。

「ゲギャー!」

「うぉ!?」

 一匹のゴブリンが覚夢に向かって襲いかかり、覚夢はそれに驚き、後ろに下がって転んでしまった。

「ゲグッ!」

 だが、転んだ拍子に覚夢の足がゴブリンの顎にヒットし、ゴブリンは動かなくなった。


 それから数十分後、ゴブリン五十匹に対し、四人という劣勢に見えるも、余裕で倒すことが出来た。

「ふぅ、これで全部か」

「そうですね」

「ん」

 草原にはゴブリンの死体の山が積まれていた。

 女性三人は返り血で汚れているが無傷で済んでいる。

 ちなみに覚夢はーー。

「…………」

 隅っこで体育座りをして落ち込んでいる。

「サトム君?」

「すいません先輩……ふがいなくて」

 三人が一人十匹以上倒しているなか、覚夢は転んで倒した一匹だけだった。

「えっと、大丈夫だよ! 初めてで一匹でも倒せたのはすごいよ! たしかに女性の後ろにいたのは恥ずかしいと思うけど……」

「…………」

「ああもう!」

 美紗の余計な一言に覚夢は余計に落ち込んだ。

「ミサ!」

「え?」

 ジョアが血相を変えて美紗の元にやって来た。

「どうしたの?」

「大変だ! が来る!」

「嘘……どうして!?」

 奴……その一言に美紗も慌てた様子だ。

「どうする……我々だけではとても太刀打ち出来ない」

「でも食い止めないと街が……とりあえずサトム君を逃がしてーー」

「来る」

「!?」

 マージの一言に空気が一変した。

 さっきまで余裕があった三人が切羽詰まらせる相手……この空気に覚夢にも緊張が走った。

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