第2話

 覚夢が戸惑っている間に、美紗が部屋の中を一通り片付けて、一方のソファーに美紗とその姉、向かいのソファーに覚夢が座った。

「改めてアタシがここの社長の結城 真奈ゆうき まなだ」

「どうも」

「まぁさっきも言ったようにここは異世界だ。剣や魔法のファンタジー世界だ」

「はぁ……正直信じられないっす」

「まぁ普通そうだろうな。だが事実だ。受け入れろ」

 真奈に「受け入れろ」と言われても、覚夢は半信半疑である。

「あの、何でここと日本が繋がってるんすか?」

「よくウェブ小説であるだろ。突然異世界に召喚されてチート能力を手に入れて、勇者になって魔王を倒すやつ」

「まぁはい」

「うちの爺ちゃんがそうだったんだ」

「……まじっすか」

「ああ、それで魔王を倒し終えた爺ちゃんは日本に戻る際にこの鍵をもらったんだ。これさえあればこの世界と日本を行き来出来るんだ」

 真奈が見せたのは、学校で美紗が使っていた金色の鍵だった。

「なるほど」

 覚夢はなんとなくだが納得はした。

「んじゃ説明は終わりとして、お前はどんくらい働ける?」

「え? いや、今日は見るだけでーー」

「あぁ? やれよ」

 メンチを切るような真奈の目に、覚夢はビビった。

「もうお姉ちゃん! あくまで候補なんだから! それにもっと詳しいことを話さないと!」

「チッ」

 真奈は舌打ちをし、今度は美紗は話始めた。

「えっとね、給料は時給千円、時間は七時間くらいかな? もちろん休憩もあるし」

「千円ってずいぶん高いっすね」

「大変な仕事もあるからね。ちなみに鍵は持った人が念じれば、希望の時間に行けるから寝る時間も大丈夫よ」

「それで主な仕事内容は?」

「それはやることがバラバラだからな……子供の世話とか店番とか色々やるのよ」

「そうっすか」

「でも新人だから最初はそんなに厳しいのはしないと思うし、色々私もサポートするわ。だからーーお願い」

 美紗は深く頭を下げた。

 覚夢は悩んだ。

 ここは異世界、何が起こるかわからない。もしかしたら命に関わるかもしれない。

 だけど今の美紗を見て、本当に困っていると悟った。

 最近まで人と関わることのなかった覚夢にまだ人を助けたい気持ちがあったんだと自分でも驚いた。

「えっと……やります」

「本当! ありがとう!」

 美紗は顔を上げ、満面の笑みを見せた。

「じゃあサトムだっけ。とりあえず週五でいいか?」

「お姉ちゃんいきなり週五って!」

「いや、いいっすよ別に。学校だけで特に用事もないっすから」

 覚夢は中学のことがあってから、習い事の格闘技を辞め、趣味もない。

 やっているのは小さい頃から日課の筋トレぐらいだ。

「そんじゃ、はい鍵」

 真奈は覚夢に金色の鍵を渡した。

「これって一つだけじゃないんすね」

「ああ、時間はかかるが量産は出来る。そんじゃ明日から働けるか?」

「はい。あの、履歴書とかいいんすか?」

「異世界には必要ねぇよ。じゃあ明日朝九時からな」

「うっす」

 こうして覚夢はこの「地球堂」で働くこととなった。



 ***



 そして夜、覚夢と美紗は鍵を使い、学校近くの公園のトイレのドアでそれぞれ日本に着いた。

「本当に思った場所と時間に着くんすね」

「うん、ただし場所は行ったことのある所、時間は約十二時間までしか時間移動は出来ないけどね」

 時刻は午後五時ちょうど。

 教室にいたのも午後五時、異世界にいた三十分をなかったかのように、時間を変えずに戻ることが出来た。

「ありがとうねサトム君、バイト引き受けてくれて」

「いえ、でも俺に異世界のこと言って大丈夫なんすか? もしかしたら言うかもしれないのに」

「大丈夫よ! 私サトム君のこと信用してるから。それにサトム君って一人ぼっちで友達いないから言う人がいないでしょ!」

「…………」

「ああごめん!」

 美紗の心ない言葉に覚夢は若干傷ついた。

「とりあえずしばらくは私と同じシフトにしようか。色々サポート出来るし」

「うっす」

「じゃあまた明日ね」

 そう言って美紗は帰って行き、覚夢は公園で立ち尽くしていた。

(なんか疲れた……)

 久々に人と、それも女性と話したこと。異世界に行って、そこでバイトすることになったことなどの慣れないことに疲れを感じた。

 これから何が起こるかわからない所に働くことになり、覚夢はそれ相応の覚悟を決めるのだった。

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