異世界バイト

三合 雷人

第1話

 与 覚夢あたえ さとむは小さい頃はテレビのヒーロー物が好きな少年だった。

 小学校の頃から格闘技を習い、いじめられっ子をいじめっ子から守ったりし、正義感に溢れていた。

 だが中学一年のある日、覚夢はクラスメイトが不良にカツアゲをされてたのを見て助けた。

 抵抗して殴ってくるも、覚夢は習った格闘技で対抗して勝ち、その時はそれで済んだ。

 ところが後日、その不良の父親が警察署長をしていて、覚夢に暴力を振られたと学校に訴えって来た。

 それどころか、不良がやった悪行を覚夢の指示でやったと言った。

 覚夢は否定するも、助けたクラスメイトも不良側につき、クラス、教師、そして覚夢の両親もそれを信じ、覚夢は孤立してしまった。

 クラスではいじめられ、教師は助けてくれず、両親はきつく当たるようになり、覚夢は否定を諦め、誰ともしゃべらなくなった。

 中学卒業後、覚夢は地元から離れた高校に入学し、一人暮らしを始めた。

 誰ともしゃべろうとせず、休み時間はスマホをいじって暇を潰すだけのむなしい日々。

 そんなある日のことーー。

「ねぇ、君帰宅部?」

 放課後、帰ろうとした覚夢に突然廊下で話しかけて来たのは、二年生の結城 美紗ゆうき みさだった。

 茶色い長髪に整った顔立ち、細い体型に大きめな胸の美少女。

 毎日告白されるほどモテると噂があるほどの人気者だ。

「あ、はい」

 そんな彼女が話しかけてすぐに、覚夢の体をベタベタと触った。

「……何すか?」

「やっぱり筋肉あるね。腕も太いし、腹筋も固いし、何かスポーツでもやってた?」

「一応……」

「ちなみに今も?」

 美紗の質問に覚夢は首を横に振った。

「そうなんだ!」

 美紗は覚夢に笑顔を見せた。

「ねぇ君、バイトする気ない?」

「……は?」

 美紗が覚夢にそう言った。

「実はね、うちは自営業でなんでも屋をやってるんだけど、バイトの子が一気に辞めて困ってたの。それで私も探すように言われてね、うちの仕事って結構体力使うから『体力のあるやつ探して来い』って言われて、でもそういう人ってほとんど運動部に入ってるからーー」

 美紗はペラペラと喋りだし、覚夢は何も言わずに聞くだけだった。

「それで俺すか?」

「うん、お願い!」

 美紗は両手を合わせて懇願した。

 覚夢はちょうどバイトを探していた。

 両親と不仲になり、仕送りは最低限の額しか振り込んでこない。

 一度コンビニで働いたことはあるが、店長がレジの金を持ち逃げしてしまい、働いて一ヶ月で閉店になった。

「……そこって遠いんすか?」

「やってくれるの!」

「どんな所か見て、それから……」

「ありがとう!」

 美紗は覚夢の両手をつかんで喜びを表した。

「君、名前は?」

「与 覚夢っす」

「サトム君ね! それじゃあこれから行こうか!」

「え、すぐっすか?」

「大丈夫! すぐ着くから!」

 覚夢は学校から近いことに安心した。

 電車賃がかかると生活費に影響が出るからだ。

「さてと……」

「?」

 美紗がポケットから取り出したのは、金色の大きな鍵だった。

 そして、閉めきった教室のドアに鍵を突き刺した。

「!?」

 すると鍵が突き刺さった場所を中心に、ドアがまるで鏡のような水面に一滴の雫がこぼれたようにユラユラと揺れた。

 その様子に覚夢は内心驚いている。

 鍵を抜き、ドアを開けると、その中は教室ではない別の空間だった。

「? ?」

 覚夢には何がなんだかわからなくなった。

「はい、じゃあ行こう!」

「ここにすか?」

「いいからいいから!」

 美紗は覚夢の背中を押し、二人は中に入っていった。

「…………」

 中に入るとそこは薄暗い部屋で、本や見たことのない道具などで散らかっている。

 覚夢は今の状況に混乱し、終始無言だ。

「お姉ちゃん!」

「ん、ああ……」

 部屋の中心のソファーにある毛布がモゾモゾと動き、毛布が剥がれると、ソファーには一人の女性が寝ていた。

 美紗と同じ茶色の長髪だが、ウェーブがかかって胸元が開いた白いYシャツに紫のパンツが丸出しだ。

「お姉ちゃん! パンツ丸見えだよ!」

「んだよ、たまの定休日だからパンツぐらいいいだろ」

「もう!」

 覚夢は一応目を反らしているが、美紗の姉は隠す気は全くなさそうだ。

「せっかくバイト候補捕まえてきたのに!」

「ん、ああ、そうか」

 美紗の姉は起き上がり、ソファーにあったスカートをはいた。

「お前名前は?」

「あ、与 覚夢っす。あの……質問いいっすか?」

「あ?」

「ここってどこっすか?」

「美紗から聞いてねぇの?」

「何でも屋ってことしか聞いてないっす」

「あ、そういえば……」

 美紗がしまったっという顔をした。

「ああ、外見ればわかるから」

「はぁ……」

 覚夢は閉じていたカーテンを開け、外を眺めた。

「……え?」

 覚夢は今の光景が信じられなかった。

 そこには剣や槍を背負った鎧の集団、獣のような耳をした人間、荷物を運んだ大型のトカゲなどが歩いていた。

「ここは……」

「ここは異世界だ」

 美紗の姉がそう言った。

 覚夢は混乱するしかなかった。

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