私と結婚しなさい! 貴方の【それ】がほしいから!

お姫さまのワガママ

 転校生が来た。女の子だ。


 名前は、今井ひめ。

 みんなは、彼女を知るうちに、自然と”姫さま”と影で呼ぶようになった。

 それには、理由がある。


 昨日は、こう言っていた。


「私ね、歯医者に月に4回は行って、歯のクリーニングしてもらっているの。だから、ほら! ピカピカでしょ? 私の歯、宝石みたいだなって、思っているの」


 一昨日は、こう言っていた。


「私ね、昨日スマホの占いで、クレオパトラの生まれ変わりだって出たの。スマホの占いだからさ、ジョーダンでしょ、って感じだったんだけど、クレオパトラを調べてみたらね。幼いころから帝王学を学んだ才女で、さらに楽器のような美しい美声の持ち主で、芳しい香水とエメラルドを愛したって、書いてあったの。あ! 真珠をワインビネガーに溶かして飲んだ伝説は、知ってる? 真珠は美容にいいらしいのよ。私も今度、やってみようと思うのだけどね。それから……」


 そして、今現在は、クラスの名簿を見て、こう言っている。


「本当に、私の名前って素敵よね。今井ひめ。可愛いし、なんか高貴な香りがするでしょ? この名前を名付けてくれたのは、おばあさまなの。おばあさまは本当に、素敵な方で、センスも素晴らしくてね。おばあさまのご自宅には、アンティークの着物や、家具がそれはセンス良く———あれっ。あなた……」

「えっ」


 何だ? ボクを見てるぞ。

 姫さまのまつ毛バサバサで、デカイまん丸の目に凝視されると、まるでメドゥーサに石にされたような気分になるから、チョット嫌なんだよな。


「あなたの名前……! 安田って言うのねっ?」

「それが何だよ」

「良い名前ね!」

「は?」


 興奮したようすで、ボクに詰め寄ってくる、姫さま。

 いやいや。安田なんて、フツーの名前だろ。

 しかし、姫さまはボクを見て、何やらニヤニヤしている。

 不躾な、お姫さまだ。

 何だろう。嫌な予感しか、しない。


「見て!」


 彼女は、手にしているこのクラスの名簿の、ボクの名前を指差した。


「【安田】。ウ冠の下の、”女”。田の縦棒を二本抜くと、”王”。つまり、貴方の名前には、【女王】が存在するのよッ!」


 は?

 何それ?


「つまり、あなたと結婚すれば、私は【姫】と、さらに【女王】の二つの名前を手にするのよ!」

「いや、欲張りすぎだろ」

「さあ、安田! この私と結婚しなさい!」

「し、失礼しまああす!」


 ボクは、とっさにその場から逃げ出した。あわてて、教室から廊下に飛び出したが、彼女は笑顔でボクを追ってくる。

 あの宝石みたいな、キラッキラな白い歯を見せながら。


「待ちなさい、安田! 女王・安田!」

「いや、それだと、よくわかんないことになるから!」


 廊下にいたやつらが、ざわざわとざわめいてる。


「女王?」

「むしろ転校生のが、女王っぽいと思ってたけどな」

「安田が、女王?」


 ああっ!

 すでにおかしなことに!


「待ちなさい、女王・安田!」

「その呼び方をやめろお!」




 終わり

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