5話

 次の日、あたしは学校から帰ると、自転車に乗って、十分くらいのところにあるホームセンターに行った。

 着くと、走って中に入り、お目当てのものを探す。


「あっ、あった!」


 除湿剤だ。

 んー。シートは湿気取りの範囲が狭そう。タンクタイプのものの方が、効果がありそうだけど。


「これ!ほ、ほとんど3千円するじゃん……」


 昨日、調味料を買うためにお小遣いほとんど使っちゃったよ。

 もう財布の中身は、千円以下…。

 女子高生の金銭能力では、アジサイ先生の力にはなれないよーー!

 やっぱり、園長の報酬前払い、頼んどけば…………。


「———そうだ!」


 あたしにはスマホがあった!

 今の世の中は、情報世界だよ、SNSだよ!

 よくわからんけど、助けて、スマホさん!

 金欠のあたしに、なにかアイデアを!


「………あった」


———こ、これだ!今のあたしにはこれしかない!


 ありがとう、スマホ!

 心の中で祈りを捧げながら、あたしは自転車に飛びのった。



 ポリ袋を下げ、あたしはやっとアジサイ先生の家に着いた。

 昨日、アジサイ先生が言った通り、今日の、ユヴェ…ユヴェーレ…えっと、この世界の名前なんだっけ。

 とにかく、この世界は雨が降っていた。

 鍋の中をかき混ぜながら、アジサイ先生が顔を上げた。


「今日は遅かったであるな。ナツキ。石を握りしめたまま、眠りこけているのかと思ったのである」

「あっれ〜?アジサイ先生、あたしが遅いから寂しかったの?」

「……寂しい?」



 鳥顔で、キョトンも首をかしげるモリフクロウ。……なんか、可愛いかも?


「我はナツキの協力者。心配するのは、当然である」

「ふーん。アジサイ先生、優しい〜」

「モリフクロウの性格は、基本、慎重で穏やか。それは、進化した我も変わらないのである。ところで、ナツキ。今日も荷物を持っている。また、重そうなものである」


 鍋をかき混ぜていたアジサイ先生は、その手を止め、あたしの方へと寄って来る。

 木の混ぜ棒が、コロン、と鍋の縁を転がった。


「鍋、いいの?ずっと混ぜてないといけないんじゃない?」

「問題ないのである。ずっと回し続けるなど、我の身が持たぬ。そんなに持久力はないのである」


 アジサイ先生がパチン、と指を鳴らすと、するり、と何かがあたしの横をすり抜けた。

 鍋の方へと目をやると、アジサイ先生はあたしの目の前にいるのに、混ぜ棒が動き始めた。

 鍋の縁に、背中にきれいな水色の羽を生やした小さな鳥人が立ち、両手で器用に棒を回していた。


「小人?」

「彼は、進化途中の鳥人である。ゆえに背丈は、鳥時代のままであり、さらに言葉を話さない。しかしインコであるから、教えれば、それだけ言葉を話すであろう」

「インコなんだ」

「正確には、セキセイインコという」


 アジサイ先生はあたしが持っていたポリ袋を手に取ると、その中身をのぞいた。


「ナツキ、なんであるか、これは?」

「除湿剤、作ろうと思って」

「除湿…。これでか?」


 あたしが買ってきたものをアジサイ先生が丸テーブルに広げてくれた。

 たくさんの重層に、園芸用の大きな鉢、それにガーゼ。

 これくらいなら、あたしにもお小遣いの範囲で買えた。

 百均よ、ありがとう!


「ガーゼを大きめに切って、鉢の下に敷いて、重層をたっぷり鉢に入れて〜」

「この粉は重層と言うのであるか」


 さらり、とアジサイ先生が白い粉をすくいあげる。


「うん。これを湿気の多そうな場所に置いておくと、この重層が湿気を吸って、水っぽくなっていくみたい。そしたら、また重層を取り替えればいいんだって」

「なるほど…。この粉にそんな成分があるなど、驚きである」

「ね、あたしもびっくり。……あたし、ちょっとはアジサイ先生の役に立てたかな?」

「当然である」


 内心おずおずしながらも、見た目はなるべく、サラッと言ってみた言葉に、アジサイ先生は躊躇もなく答えた。


「ナツキ。さすが、宝石が選んだ、あちらの住人である」


 なでなでと、優しく頭を撫でてくれる。


「さあ、これで質のいい宝石に近づくのである。ナツキ、手伝って欲しいのである」

「うん」


 アジサイ先生。

 もっと褒めてくれると思ってた、なんて思うのは、わがままなのかな。


 ………あれ?


 あたし、なんでアジサイ先生にこんなこと、思ってるんだろう…。



 宝石を生成し始めて、丸二日になろうとしていた。

 あたしは、学校でぼんやりと授業を受けていた。

 窓の外を見ると、電線にカラスがとまっている。その隣には、灰色がかった鳥が、ちょこんととまっている。

 灰色がかった羽………。


———アジサイ先生!?


 いやいや、ただのハトじゃん。

 はあ、あたしマジやばいよ。どうかしてる。


「日廻〜。ボーッとしてるぞ〜?今の俺の話、聞いてたか?」

「あ、きーてませんでした」

「おっけー。わかった。後で、職員室な」

「ううっ」


 後ろの席の友人が「ナツキ、おつー」と、茶化してくる。


「さいあく……」


 一番嫌いな数学で、この事態かあ。

 授業が終わったら、やっと学校から解放されるってところだったのに。

 まあ、日が落ちる時間にはまだ早いからいいけど。

 長引かないといいな……。


 職員室に入ると、先生が白い紙をぴらぴらとさせていた。

 怪訝そうなあたしに、先生はそれを押し付けてくる。


「なんですか、これ」

「課題」

「は?」

「数学☆罰課題〜。最近、お前ボーッとしてるぞ。授業、しっかり受けないと……成績に響くぞ」

「わかってます」


———わかってるけど…。


 先生が出してきた課題が書いてあるメモを見て、あたしはハア、と息をついた。

 もうすぐ、日が落ちて、夕方になる。


 宝石が、出来上がる時刻だ。

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