3話

 話を聞き終わったあたしとアジサイ先生は、園庭で遊ぶさまざまな種族の子供たちを見ていた。

 あたしは主に、さっき聞いた園長先生の話を思い出しながら、ボーゼンとしてる。

 いやいや、宝石を用意するなんて、無理でしょ?

 あたしの世界でだって価値高いって!

 何千万円?何億円規模の話だよ?

 縁がなさすぎて、わからんけど、とんでもないことをサラッと言ったよね、あの園長先生!

 なんか断るすきがなくて、なあなあのまま、話を終えられちゃったけど!


 いや、でもさ。


 最後、園長が気になることは言ってたんだよね。


———報酬は、出しますから!


 報酬ってなに?

 いや…その報酬が、何かは言ってくんないの!?

 この世界の価値観もわかんないのに、報酬に期待なんかできないっての〜…。


「はあ〜〜〜〜っ」


 あたしの人生、最大のため息が出た気がする。


「でかい息であるな。ナツキ」

「てかさ。アジサイ先生。この赤い宝石さん、完全に人選ミス」


 アジサイ先生が首にかけてくれた宝石をプラプラとしてみせる。


「あたしみたいなビンボー女子高生じゃなくてさ、アラブの石油王かなんかを選ぶべきだったね」

「アラブ…?どこのなんであるか?」

「はあ………」


 アジサイ先生に言っても、わかんないか。


「だからさ、あたしの世界では———」


 あたしはアジサイ先生に、あたしの世界でも宝石というのは価値が高いことを話した。

 この世界の価値ではこうだけど、あっちの世界の価値ではこうだから、とか言うのはあたしにはサッパリだし、そもそも異世界の価値の話なんて、ようわからん。

 なんだか、もう頭のなかぐっちゃぐちゃ。

 すると、アジサイ先生がよく通る低い声で、ホウ、と鳴いた。


「そんなことは知っているのである」

「………は?」

「この世界とナツキの世界は価値観が似ているらしいのである。次元が近いせいかも知れん」

「え?いやいや、知ってたの?じゃあ、あたしにどうしろっての!身売りしろってか!?だったら報酬前払いとかのが、よっぽど経済的——」

「まず、人身売買などさせるか、馬鹿者」


 コブシで頭をポカンとされた。


「まあ、報酬は、期待してもいいのではないか?」

「だって、なにが報酬なのか…。そもそも、宝石なんてどーやって……」

「我は”先生”であるぞ。さまざまなことを知っているのである」

「え?何か方法があるの?」

「前例があるという事なのだ」

「前例?」

「この世界に来た異世界の人間は、ナツキだけではない。エーデル保育園で食べる宝石の調達を頼まれたのは、これで二人目なのである」

「え!?じゃあ一人目は…?」

「我だ」


 ………え!?

 アジサイ先生が、あたしの世界からきたって…。

 あたしは、ますます頭の整理が追いつかない。

 そんなあたしを置いていくように、アジサイ先生は話を進めていく。


「我は、ナツキのいた世界から来た。初めはただのモリフクロウであった」

「ただのフクロウから、人型になったってこと?」

「そうである。フクロウとして、エーデル保育園にたどり着いた我は、あの園長に、食物を提供され、食べた。この世界は、動物が人型に進化する…そういう成分の食物や水分があるらしい。我は日々進化していき、最終的にはこのような姿になった。というより、そうなるのを園長は、待っていたようだった」

「待っていた?」

「我と会話ができるように進化させたが正しいかもしれん。あちらの世界のモノに宝石を用意して欲しかったようなのだ。しかし、あちらの世界でも宝石は価値が高い。我がそれを説明すると、園長はたいそう悲しんでいたな」


 いや、そんなことよりさ。

 あたしは宝石の前に、気になることがあった。


「アジサイ先生、なんとも思わないの!?」


 あたしが急に声を荒げたからなのか、アジサイ先生は黒い瞳をさらに丸くして驚いた。


「………ナツキ!お前は……」


 アジサイ先生が何か言いかけてたけど、そんなのはおかまいなしに、あたしの口は止まらない。


「そんな勝手に人型?にされてさ!進化っていうけど、園長のジコマンでしょ!?アジサイ先生の意思にカンケーなくされて、いいワケ!?あの園長、なんか隠してるみたいだしさ。信じていいのかな!?」

「………ナツキ」


 顔を真っ赤にして、勝手に怒ってるあたし。

 だけどそんなの、なんか納得いかない。

 すると、アジサイ先生が、大きな手のひらをあたしの頭に乗せた。

 なんか、よしよしされてる…?アジサイ先生の手の甲の、少し硬い羽も頭に触れて、なんだかくすぐったい。


「ナツキのその正義感が、気に入ったのである。……昔から変わらんなあ」

「え?あたし、アジサイ先生に会ったことあるの」

「あ……ああ。まあな」

「ど、どこで?」

「……今は、することがある。その話は今後である。こちらとあちらの時間軸は違うとはいえ、そろそろ帰らんと、夕飯時ではないか?」

「え!そうなの?…てか、帰れるの?」


 散々、話を引き伸ばされたけど、ようやくその話が出たよ!


「その宝石を使えば、何度でも行き来できる。夕方、空が赤く染まるころ。こちらに来たいと思えば、来れる」

「そうなんだ…。でも、さっきはなんでこの世界に来れたんだろう?」

「宝石を手にした時であるか?現実逃避でもしていたとかか」


 あ。数学の小テスト………。

 思い出すと、鬱になって来てしまうので、忘れておこう。


「次、来るときにはな。持って来て欲しいものがあるのである」

「なに?」

「なんでもいい。調味料を持って来てほしいのである」

「え?……塩とか、砂糖とか?」

「ああ。人間が食物を作るときに味付けで入れるやつである」

「わかった」


 そんなもの、何に使うんだろう?


「帰るときは自分の家の前。こちらに来るときに、我の家を想像すれば、その玄関の前に出られるはずである」

「うん。それじゃあ、アジサイ先生…。またね」


 あたしは首から下げている、宝石が入った袋を握りしめ、自分の家の前を思い浮かべた。

 するとまた、あのときみたいに意識が遠のいていく。

 すぐに視界が何も見えなくなり、気づいたら、あたしの家の前にいた。


———夢?


 そう思ってみても、まだ握りしめたままの宝石の入った袋が、現実を物語っていた。

 空を見ると、太陽が落ちかけている。

 そうだ。スマホ!

 リュックの内ポケットから、スマホを取り出す。……4G。日付は?


———今日の日付。


 アジサイ先生の行った通り、時間は、やっぱり少ししか進んでない。


「うーん。気になるし、明日も、行かなきゃね」


 現実逃避だろうがなんだろうが、いいんだ。

 なんか、楽しかったんだもん。

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