宝石調理員は、女子高生! (完結)

フクロウ鳥人のアジサイ先生といっしょに、宝石づくり? そんなの本当にできるの?

1話

 友人と別れた、学校の帰り道。

 あたしはひとり、トボトボと歩いていた。

 背負ったリュックが、いつもよりもさらに重く肩にのしかかる。

 セーラーのリボンも、心なしか、よれっとしている。

 今回の数学の小テストは、過去最悪だったな…。

 もう、手元に返ってこなくていいよ…。

 いっそ、このままどっか遠くに行ってしまいたい…。


 その時、あたしの頭にポカンと何かが降ってきた。

 コンコン、とコンクリートに転がって行ったものを拾って、手にとってみる。


「わ〜!やば……!」


 それは、綺麗な宝石みたいな石だった。


「なんで、こんなのが空から降ってくんだろう?今日、実はついてる?」


 とたん、上機嫌になる単純なあたし。


「キレイだな〜」


 とたん、ぐわん、と急激に意識が遠のいていくのを感じた。

 朦朧とした意識のなか、何かが近づいてきて、何かが遠ざかっていくのを感じた。

 そして、視界が真っ白なる。


 あたし、倒れたの?眠ったの?

 閉じていたまぶたの裏の暗闇から、あたしの視界はどんどん開いていった。

 カラダを起こしながら、覚醒して行く意識とともに、あたたかい日差しが、あたしのカラダをあたためてくれる。


 それはともかく…

 あの〜………誰?


 起き上がったあたしの目の前にいたのは、変な鳥人間だった。


「………オバケ?」

「我の名は、アジサイ。森の賢人・モリフクロウの鳥人である」


 ………喋んの!?

 あたしは、そいつから目をそらすように、ゆっくりと視線を泳がせた。

 深い森の中、天高く生い茂った木々の合間から、真っ青な空が見える。

 ほどよい気温、澄んだ空気。

 車の音も、飛行機の音も、電車の音もない。

 目の前には、服を着た二足歩行のフクロウがいる。

 地面についたままのお尻に、冷たい地面の温度が、背中にヒヤリと伝わる。

 まさかの着ぐるみ?と思ったけれど、どう見てもクチバシから声が出ているし、肩口から生えている灰色の羽もきれいだ。

 どう見ても、生きている人間のようなフクロウだ。

 こいつ、今のところ、襲って来る気配はない……。危険はないのかな?

 ………あ、そうじゃん!あたしにはスマホがあるじゃん!文明の利器ってやつだね。

 あたしはリュックの内ポケットから、スマホを取り出し、タップする。


———圏外。


 ……わかってたけどね〜〜〜!

 あたしはすがるように、目の前のフクロウを見上げた。


「あの、ここ、どこ?」

「ここがどこだか、知りたいか。しかし娘よ。まずは、ぬしが手にしている宝石をどこで手にしたのか知りたいのであるが」

「え、これは…空から降ってきて…」

「やはり、そうか…。混乱しているであろうな。娘よ。名は、なんと言う?」

日廻ひまわりナツキ…」

「ナツキ……か。うむ、我の住まいへ案内するのである」


 そう言うと、アジサイと名乗った鳥人間は、あたしを手招いた。

 手の甲まで生えた灰色の羽だが、手そのものは人間のそれ。切りそろえられた丸い爪。

 しかし足の方は、フクロウの鋭い爪が生えた、鳥の足。

 あたしは役立たずのスマホをリュックにしまい、立ち上がると、フクロウについていく。


「あの、アジサイさん…」

「我のことは、アジサイ先生と呼ぶようにな」

「は?先生?」

「我は、ぬしの協力者。元の世界へもどりたくば、尊敬の念を込めて、そう呼ぶがいい」


 はあ??鳥人間、マジでえらそうなんだけど。

 まあ、早く元の世界に戻りたいのは確かだから、従うしかないか。


「アジサイ先生。あの〜」

「なんだ、ナツキよ」

「アジサイ先生の家、まだ?」


 アジサイ先生は、ホホゥ、と笑った。


「まだ歩き始めて五分もたっていないが」

「森のなかでローファーは、キツイっすわ……」


 学校のセーラー服のまま、こんなところに来てしまったらしいあたしは、森のなかでドロドロになりつつあるローファーの土を平らな石にこすりつけた。


「着いたら、茶でもいれよう。我の食の好みは、お前たち人のそれに近いから、安心するがいいのである」


 数十分後、やっとこさアジサイ先生の家につくと、あたしはどっかりと、部屋の真ん中のソファに沈み込んだ。

 日々の運動は体育だけだしなあ。そもそも、歩くのも嫌いだし、早く元の世界に帰りたい。

 アジサイ先生が、お茶を出してくれる。

 変な世界のお茶だけど大丈夫なのか?色は緑だし、見た目は問題なさそうだけど…。

 ゴクリと飲んでみる。フツーにお茶だ。おいしい!

 一緒に出された、お菓子も、フツーにイケるよ。

 なーんだ。結構、いいところ?思い出作りにちょうどいいか。

 帰ったら、話のネタぐらいにはなるかな?なんて思っていると、アジサイ先生がジッとあたしを見つめているのに気づいた。


「な、なに?そーいや、さっきこの宝石がどうたらって言ってたよね」


 制服のポケットに入れていた宝石をカラン、とテーブルに置く。

 アジサイ先生は、それを手に取り、マジマジと観察する。


「これは、我がこの世界から送った送迎システムのようなものなのである」

「は?」


 突然、なに?

 目を丸くしていると、アジサイ先生は座っていたソファから立ち上がる。

 後ろにあったタンスの引き出しから、赤い紐が通されたお守りのような小さな袋に、その宝石をいれると、それをあたしの首に下げてくれた。


「要は、これがナツキをこの世界に連れて来たのだ」

「なんで、あたし?」

「あちらの世界に存在しないものを手をすると言うことは、それを手にした瞬間、ぬしはこちらの世界の住人にもなったということなのである」

「は?意味わかんないんだけど」


 すると、アジサイ先生は一冊の本を取り出し、あたしに見せてくれた。

 それは、この世界の地図のようだった。

 大きな一つの大陸が描かれている。その大陸をいくつかに分けて、色分けしてあった。


「ここは、ユヴェーレン・シュムックという世界だ。我らが今いるのは、ヴァルドゥング地方。我のような鳥人や、獣人、他にも様々な種族が住んでいる」


 アジサイ先生が指指したのは、緑色に塗られた地方だった。

 アジサイ先生みたいな、鳥みたいな人が や、けものみたいな人が、住んでいるところってこと?

 あたしたちの世界とは、まったく違うんだ。


「とりあえず、まずこのラント地方にある、エーデル保育園に、ぬしを連れて行く。……今からな」

「は!?なにいきなり?どゆこと?」

「行けばわかる。そこで、もっとくわしく話を聞け」

「いや今、全部、聞けると思ったんだけど」

「すまないが、”今の”我は仲介人にすぎないのである」

「はあ!?」


 でも、このまま居ても、なにも教えてもらえなさそうだったので、仕方なく、あたしは頷いた。

 承諾したあたしを見ると、アジサイ先生はカッカッ、と外に出て行く。

 それに、のろのろとついて行くあたし。

 外は、心地よい気温だ。湿気の多い日本とは違った過ごしやすい気候。

 ふと、ここには、数学のテストも、ないんだろうな、と思った。

 結構、景色もいいし、いい世界かも…なんて思い始めているのにハッとして、あたしは首をぶんぶんとふる。

 

「あ、あのさ。ホントになにがなにやら」


 思いを振り切るように言うあたしに、アジサイ先生は言った。


「わからんならば、カラダに教えるまでなのである」

「は!?」


 そう言うと、アジサイ先生のビー玉みたいな黒くて丸い目が、さらにグワッと大きくなって、灰色っぽい羽がザザッと波打った。

 鳥人という人種らしいアジサイ先生の来ているシャツには、肩甲骨のあたりに穴が空いているらしい。

 そこから生えた灰色の羽が、バサリと広がる。


「飛ぶぞ」


 あたしを横抱きにしたアジサイ先生は、翼をはためかせると、軽々と飛び上がった。


———やば〜…あたし飛んでる。


 ゆうゆうと飛んで行くアジサイ先生に抱かれて、青々とした木々が続く、ジャングルのようなヴァルドゥング地方をぬけた。

 続く、田園風景のラント地方は、まるで絵本の世界のような民家が点々としている。

 オレンジの三角屋根に、木枠の窓。

 ところどころが石畳で舗装され、家々の窓には小さな花が咲いていた。


 しばらく飛んでいると、アジサイ先生が声をあげた。


「見えた。あれが、エーデル保育園である」

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