2話

 保護者は、どうしたんだ?

 ……後から来るのだろうか?


「い、いらっしゃいませ!ようこそ」


 少年は、なにも喋ることなくジッと私を見つめている。


「どこでも空いておりますので、お好きな席にどうぞ」


 ガラ空きの店内だから座り放題なのは間違いない。

 どうせ、ゴールデンタイムもなにもない店なのだ。

 しかし、少年は少し俯いただけで、そこから動こうとはしなかった。


「お客さま……?」

「あの……津島神社に」

「え?」


 ボソボソ呟く少年の口元に耳をやり、私はもう一度言ってほしい、とお願いする。

 少年はムッと口をとがらせたのち、仕方なさそうにもう一度言ってくれた。


「俺と津島神社に、行ってください。……一緒に」


 蚊の鳴くような声だったが、今度は聞き取れた。

 いや、しかし……どういうことだ?


「え? あの、ご両親は……」

「暇なんでしょ? この喫茶店」

「いや、だからって。私は君と、初めましてなワケだし」


 つい、素でしゃべってしまう。

 しかし、少年はそんなことはおかまいなしで、ぐいっと一歩二歩進み、私と距離をつめてきた。


「俺、篝火かがりびユズル。十歳。さあ、これで初対面じゃないよね」

「いや、お父さんやお母さんは?」

「言ったって、ムダ。だって二人は、引っ越したいんだから」

「……引っ越しって」

「うん。北の方にね、行くんだってさ。だから、学校のみんなとお別れしなきゃいけないんだ。俺、絶対ヤだからさ、津島神社に言って神様にお願いしたいんだよ。行きたくないですって。でも、神様に適当にお願いしたって聞いてくれないと思って……。だから、ちゃんとやり方を聞きたいんだ。神社の人に聞くのは……緊張するし……」


 彼は、息継ぎもせずに、そこまで喋りきった。

 本来は、ずいぶんとお喋りな少年らしい。


「でも、なんで私が」

「おじさん。天王祭の時に、片隅で屋台出してたでしょ? 不味いコーヒーの」

「ま、不味いコーヒー……ね」

「みんな言ってたよ。あそこの喫茶店のコーヒーは不味くなったって」

「そ、そうだったのか……」

「気づいてなかったの?」

「いや、その。実は、私は、根っからの紅茶好きなんだ」


 私は備品であるプレス式コーヒーメーカーと、私物のティーセットを指さした。

 香ばしい様々な産地のコーヒー豆と、華やかな茶葉の香りが入り混じった店内。

 ユズルと名乗った少年は、フーンと首を傾げた。


「おじさん、ヘンな人だね」

「ヘン…!」


 小学生のこの素直でストレートな物言いは、さすがとしか言いようがない。心にズシンとくるな。


「ねえ、お願い。お賽銭は持って来たから。神様の正しいお参りのやり方を教えてよ」

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