おキツネさまとシュモンの御子 (完結)
ウカノミタマノカミの名において 銀杏のチカラをもって これを封じる!
一 「白いキツネは油揚げがお好き」
「キサマが……ウカさまが”シュモンの御子”に選ばれたというガキか」
そういう動物は、なんだかキツネに似ていた。
そして、とても白い。
「白いキツネ…?」
ボクは驚いて、声も出せずに、突っ立っていた。
そして…ボクはうっすら、わかってしまった。
この白いキツネはさっきまでここにいた、”おキツネさま”だって…!
ここは、ボクがじいちゃんに頼まれて、いつも参拝に来る、津島神社。
いつものようにお参りして、社務所でお神酒を奉納したあと、うちの商売繁盛のために、一緒に参っている、稲荷。
その稲荷の、二体のおキツネさまの像が、さっき、突然ぴかーっと光った。
わけがわからないままいるうちに、二匹のうちの一体が、いつのまにかボクの目の前にちょこんと座っていた。
像のときよりも、心なしか体格が大きくなっている気がする。その大きさは、オオカミくらいのサイズになっていた。
ボクが何も言えないままでいると、おキツネさまはフン、と鼻を鳴らした。
「あの…なんの用…?」
おそるおそるボクがたずねると、おキツネさまはそっけなく顔をプイッとやり、ふてくされたように言った。
「ガキよ、名前は?」
「ほ、北条タイガです…」
「フン、チビのくせに、大それた名だな」
「ムッ。あのさ、名前を聞くなら、まずそっちからじゃない? オレ、まだコドモだけどさ、それくらいの礼儀は知ってるよ?」
じいちゃんから、礼儀はさんざん叩き込まれてるからね。
すると、白いキツネはぷるぷると震えだした。
「なんと無礼なガキよ! ワレはキサマよりも何百年と生きておる管狐、ウカノミタマノカミさまの使いなるぞ!」
「はあ? よくわかんない人の名前言われてもボク知らないんだけど…」
「人ではない! ウカさまは神である! 全く…このようなガキに”シュモンの御子”が務まるモノか! なぜ、ウカさまはこのようなモノに…」
「シュ…? なに? 御朱印のこと? 御朱印なら、ウチにいっぱいあるけど」
「な、なに! いっぱい? 見てみた…い、いや…ワレには指名が…!」
「じいちゃんが集めてるんだ。見たいなら、見せてあげるよ。北条豆腐店って言って、けっこう美味しいオアゲもあるよ。キツネだから、ちょっとは好きなんじゃ…」
「アゲだと!? アゲがあるのか!」
「う、うん」
「…フン! どうせ、その辺とアゲと変わらぬのであろう? ワレは食に通ずる、舌の肥えたキツネである」
「ム! ボクのじいちゃんのオアゲはこだわりが違うんだよ!」
じいちゃんのアゲが、その辺のアゲと同じと言われては、ボクは黙っていられない。
「天然のにがりに、国産の菜種油! そして、代々受け継がれる伝統の味付け! うちのアゲは、とにかく分厚いんだ! カリカリ焼いても、肉厚だから、中はすんごくジューシー!」
おキツネさまのノドが、ゴクリとなったのをボクは聞きのがさなかった。
おキツネさまは口をあんぐりとあけて、歯のあいだからは、ヨダレがたらたらとこぼれて出してる。
ふふーん、もうひと押しかな?
「またコトコト煮込んで味付けしたアゲが、これまた最高〜! 一口かじれば、油あげの厚み、口のなかにじんわりと広がるダシの味…心も体も癒される~…」
「も~ガマンできん! 食わせてくれ! キサマの家の油アゲを! 人の子にモノを乞うのは解せぬが、アゲとなれば話は別よ!」
叫びながら、ボクの目の前まで鼻先を近づけて目を輝かせているおキツネさま。
うんうん、やっぱりじいちゃんのオアゲは最高だからね。おキツネさまといえど、虜にしちゃうのは当然だよ。
これは、早く食べさせてあげないとね。
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