四 「銀杏の名において…魔よ、滅せよ!」

 ボクは慌てておキツネさまの背中から飛びおりる。

 気づくと、マーラが異常に苦しがっているのが見えた。


「ここは…! ウカの下僕め…! ワガハイをわざとここに投げ飛ばしたか…!」


 マーラの絶望的に見あげたのは、大きなイチョウの木だった。


「昔と景色は変わったが、この場所だけは変わらん。フン。長く眠りすぎたな、マーラ」


 マーラが息も絶え絶えにつぶやいた。


「ここは…津島の大イチョウの場所か…!」


 目を丸くするボクに、白く輝くおキツネさまが答えてくれた。


「神社を守ってくださる木のことだ。ワレはマーラを祓うとき、御神木のチカラをかりて、滅する。今ワレは、ご神木と対話しているのだ」


 銀杏の葉が、ボクの周りに舞い落ちてくる。


「ご神木は、ずっとキサマを見ていたと言っている。お前が小さなころからな。さあ、ご神木に名を名乗れ」

「ほ、北条タイガです」


 すると、カラダの奥底から、あたたかな力が湧き上がってくる。


「これぞ、御神木のチカラだ」


 そして、ボクの目の前にキレイなカタチの模様が浮かび上がる。

 桜を模した円のなかに、藤の花のキレイな文様が描かれた印が、赤くおされ、筆文字で、津島神社と書かれている。


「これが津島神社のシュモン。これにて、マーラをはらう」

「ど、どうすればいいのッ?」

「叫べ。キサマの頭の中に浮かんだ言葉を」


 ボクはドキドキする胸を抑え込んで、スウ、と息をすいこんだ。


「”ウカノミタマノカミの名において 銀杏のチカラをもって これを封じる”」


 すると銀杏の枝がパアッと光り、マーラにむかってビューンと伸びて行き、ぎゅうう、巻き付いた。

 そして、ぎゅう、とヘビのように締め付けていく。


「”魔よ、滅せよ”!」


 ボクの叫びとともに、シュモンがマーラの体全体をおおうように、ドン!とぶつかる。

 スタンプのように押されたそれは、ぐるぐると回転し、銀杏の幹は更に力強くぐるぐるとうねるようにマーラに巻きついていく。

 幹からは、可愛いギンナンの実がぽこぽことなっていた。

 それは金色に光り、その光がまた、マーラを更に苦しめている。


「こ、これは…この光は…! あの…!」


 そして、それを最後に、シュウシュウと水が蒸発するみたいに、マーラの姿は消えてなくなっていた。



 ”人間がいる限り、ワガハイは不滅”。


 マーラはそう言っていた。

 ボクはおキツネさまの前で、頭を抱えている。


「まだ、マーラは生きてるってこと…?」

「マーラは人間の欲から生まれるモノ。一人だけじゃあない。言っとらんかったか?」

「…聞いてない~~~!」

「そうか」


 平気な顔をして言う、おキツネさま。


「ちょっと! それじゃあ、またいつマーラが生まれるかも知れないってこと!?」


 思わずさけんでしまうボク。

 おキツネさまがうるさそうに耳を後ろ足でふさいでるけど、かまうもんか。

 だって、必死でたおしたあのマーラはあれだけじゃなかったなんて…。


「いつまた現れるの!??」

「知るか。だからこうして”シュモンの御子”のキサマにアドバイスしとるんだろう」

「”シュモンの御子”…ボクが…」

「ちゃんと自覚せいよ。それよりも、キサマの家のアゲをはよう食いたいんじゃが!」


 じゅるりと、したたりそうなヨダレをこらえながら、おキツネさまが言う。


「……オッケー。待ってて。最高のオアゲレシピを持ってきてあげるよ」


 シッポをブンブンふりながら、おキツネさまはコクコク頷く。

 じいちゃんがよく言ってたっけ。

 長い歴史と文化が受け継がれる、津島の土地には多くの神さまがいるって。


 そして、その神さまには悪い神様もいる…。


「シュモンの御子、かあ」


 オアゲを手に、つぶやく。


「とりあえずは、オアゲをおいしく料理だ! おキツネさまが待ってるしね」


 調理台の下から醤油を取り出しながら、ボクはおキツネさまのために、腕を振るうのだった。



おわり

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