第71話 醒めない夢
71.
~果歩が消えた日から 22
すごいことが起こった。俺はとうとう果歩を見つけた。
18年間見つけられなかった妻を。碧と会えなかったのは
残念だが。
ただ果歩が俺のことを忘れてしまっている風なのが
腑に落ちない。あの様子を見ているとやっぱりどこかで
事故に巻き込まれて記憶喪失とか、その類で今まで
帰って来なかったのでは? と思えて仕方ない。
名刺交換したあの男は誰なんだ? 疑問が次から次へと
浮かび、いてもたってもいられない。鍋を買いに行ったのに
名刺交換した後、鍋のことなんて頭の中から吹っ飛んでしまって
いた。
家に着いてから買い忘れたことに気付いた。果歩は
帰ってくるだろうか? 帰って来るだろ、帰る家はここしか
ないのだから。
果歩とあの溝口とかいう男と会うまでの間、俺は
グルグルそんなことばかりを考えて過ごした。
アラフィフのひとり暮らしの寡生活にこれからは
妻と娘という彩りが添えられるのだという可能性が
俺の心を躍らせた。
・・・
「今の人、旦那さんだよね? 」
「元よ。今の旦那さんはあなただもん」
「彼に見つかって返ってよかったのかもな。ここで
はっきりと、俺達戸籍上もちゃんとした
夫婦だと知らしめた上で縁を切ればすっきりするだろうし。
彼にはすまないが」
「あなたにはすごく迷惑かけちゃうけど、私もそう
思う。元夫はなかなか判ってくれないかもしれないけれど
法律上なんの問題もなく私たちはれっきとした夫婦なのだし。
気にしないようにしてたけれど、やっぱり元夫は私の喉元に
突き刺さった小さなちいさな小骨のようなものだったのかも
しれないわ。これでスパッと抜けると思うとほっとする
というか・・」
「大丈夫さ。それに君とあの人が暮らした年数よりも俺たちは
長い年月、夫婦なのだし」
「うん、そうよね。大丈夫よね」
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