ラン!

「おい! どうすんだよ! このままじゃ、俺たちは燻製焼きだぜ!」


 迫りくる炎に向かって、俺は叫ぶ。

 でもここにいるアメリカ人が、俺の日本語ことばを理解しているとは思えない。

 少なくとも、リザは気を失ったままだ。

 そう思っていたんだが――


「ゲタウェイ!」


 そんな言葉が聞こえた。

 叫んだのは、リザだった。

 気絶していたリザだったが、目を覚ましたのだ。

 だが、英語がわからない俺は、リザが叫んだ言葉の意味を理解できない。


「ハッチから離れろ!」


 リザがまた叫んだ。

 今度は日本語だ。

 でもその意味を理解する前に――


 ――リザが背中の鞘から、何かを抜いた。

 それはまるで、日本刀のように美しく、白く輝く刀だった。

 その輝きは光を反射しているものではない。

 蛍光灯のように、刀自体が発光していた。

 そしてその日本刀のような武器を……え?


 ――ちょっと待て!


 俺はリザの機嫌を損ねるようなことを言ったか?

 言ったとしても、俺を串刺しにすることはねーだろ?

 リザは今、あの日本刀のような武器を前に構えながら、俺に向かって突っ込んできているんだぜ。


「どけ!」


 リザが叫ぶ。

 そんなの、言われる前からやってる!

 俺はゴールキーパーがセーブするように、体を横に投げ出す。

 そして俺がいなくなった空白に向かって、リザが刀を構えながら突進する。

 次の瞬間――


 一瞬の閃光。


 それが瞳に突き刺さる。

 だが直後、これまで全く開かなかったハッチが縦に割れた。

 

 ど、どういうことだ?

 

 まさかリザの刀で、この分厚いハッチを斬り裂いてしまったということか?

 まるでマンガだ。

 信じられない。

 でも信じられないことが、目の前で、現実に起きている。


「ラン!」


 縦に割れたハッチに向かって、リザが叫ぶ。

 と同時に、機内の奥で大きな爆発が起きる。

 その爆風で、立ち上がろうとした俺はバランスを崩して、また倒れてしまう。

 その間に、兵士たちは外に逃げ出していく。


 おい!

 まさか置いてけぼりか?

 薄情にもほどがあるだろ!

 そう思った矢先だ。


「掴まれ!」


 まるで天使だ。

 俺はそう思った。

 なぜって?

 だってほら、見てみろよ。

 リザが俺に向かって、手を差し伸べてくれているんだぜ!

 俺はリザの手を握り、言った。


「ありがとう」


 リザが俺の手を引っ張り、体を起こす。


「あんたが心あるアメリカ人で助かったよ」

「勘違いするな。お前は我々の盾だ。その役割が終わる前に死なれれば、私は除隊処分だ」

「理由は何でもいいよ」


 それから俺はリザの肩を借りて、俺たちは何とかレイベンから脱出するも――


 ――まるで目の前で火山が噴火したようだった。


 レイベンが爆発したのだ。

 それも大爆発だ。

 そのせいで、レイベンはほぼ跡形もなく吹き飛んでしまった。

 無数の残骸が頭上から降り注ぐ。

 小さい残骸だけだったらいい。

 でも中には、巨大な鉄の塊も降ってくる。

 しかもその塊が、俺に向かって振ってくる。

 この危機を、どうやって乗り切る?


 ――さすがに終わりだ。


 そう諦めざるを得ない。

 俺はスーパーマンじゃないから、怪力であの塊を受け止めることなんてできやしない。

 だから俺はここで、ペシャンコになって人生を終えるのさ。

 ……なんて思ってたんだが――


 俺が肩を借りていたリザが、いきなりジャンプする。

 しかも降ってくる巨大な鉄の塊に向かって。

 3メートルくらい飛翔したかもしれない。

 普通の人間の脚力じゃ、飛べる高さじゃない。

 強化外骨格が、リザの脚力を拡張しているのだろう。

 その拡張された脚力で、高く舞い上がる。

 でも、どうして?

 どうして高く舞い上がる必要がある?

 しかも巨大な鉄の塊に向かって。


 その答えを、リザはすぐに示してくれた。


 リザは刀を頭上で大きく振りかぶり、その刀を、鉄の塊に向かって振りおろした。

 すると鉄の塊は、パックリと二つに割れた。

 まるでナイフでゼリーを切ったように、あの刀は、簡単に鉄の塊を真っ二つに切り裂いてしまったのだ。

 それで俺に向かっていた巨大な鉄の塊は、二つに切り裂かれてしまったことで、軌道が左右に分かれた。

 そのおかげで、二つに分かれたそれぞれの鉄の塊は、俺の両脇の地面に突き刺さる。

 俺は直撃を免れた。

 それを同じくして、リザは地面に着地した。

 ちょっとした地震のように、一瞬だけ地面が揺れた後に、彼女の周りで砂埃が舞う。

 その光景を目の当たりにして、俺は開いた口が塞がらないでいる。

 こいつは自分たちをアメリカ人の生き残りだと言ったが、俺が勘違いしていた通り、ホントは宇宙人なんじゃないかとさえ思う。

 例えそうだとしても、ここに大きな問題が残っている。

 レイベンが破壊された。

 ということはつまり、


「俺たちは、どうやって帰ればいいんだ?」

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