病院

 俺は“本物の妹”が入院していた病院へと向かった。


 しかし病院までは遠い。

 しかも病院は爆心地から近いから、残っているかどうかもわからない。

 放射能だって強い。

 まあ、放射能は関係ないか。

 ロシア製の核搭載型ICBM「R-36M」の投下を間近で体験したんだ。

 俺の肉体はとっくに被爆し、浴びた放射能は徐々に、時間をかけて俺の体を蝕んでいくのだろう。


 病院がある場所までは、4日を費やした。

 爆心地に近づけば近づくほど、人が少なくなる。

 それはそれで、俺がこそこそしなくて済むからいいのだが、問題は食料だ。

 人が著しく減ったエリアでは、「補給所」にドローンが食料や弾薬を補充しに来ない。

 だから「補給所」の“残飯”をあさるために遠回りをしなければならない。

 おまけに移動手段は、俺の足だけなんだ。


 そして、ようやく目的地についた。


 病院は、あった。


 だが、かろうじて、だ。

 建物の3分の2は原爆で吹き飛ばされた後で、食べかけのケーキみたいになっている。

 窓ガラスは全て割れ、窓の中は完全な闇だ。

 まるで現実を完全にシャットアウトしているかのような闇。

 心霊スポットには、うってつけ。

 でも今じゃ、どこのテレビ局も取材に来ない。

 テレビ局なんて、もうないから。

 俺は幽霊と挨拶を交わすつもりはないが、半壊した病院に足を踏み入れる。

 “本物の妹”の病室がある場所は、覚えている。

 俺はそこへ向かう。

 運がいいと言うべきか、それとも妹が意図的に仕組んだことなのか、わからないが、“本物の妹”の病室は、残っていた。

 俺はその扉の前に立つ。

 ネームプレートは砂埃で隠れてしまっているが、親指でこすると、“葉月ハヅキ”の文字が現れる。

 間違いない。

 本当に俺は、“本物の妹”の病室の前にいるのだ。

 しかし、扉の向こうに、“本物の妹”はいるのだろうか?

 “あれ”が夢でないのであれば、“本物の妹”は妹によって殺された。

 じゃあ、何で妹は、“本物の妹”をボーナスチャンスのターゲットに選んだんだ?


 ……これ以上、考えるのは無意味だ。


 俺は一度、深い深呼吸をする。

 それから病室のドアに手をかける。

 胸の高鳴りは、まだ収まらない。

 でも、この目で確かめなければならない。


 俺は、病室のドアを開けた。

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