自分の胸に聞いてみよう
2体の〈レオ〉はハヅキストの頭に片っ端から噛みつき、頭蓋骨を砕く。
2体の〈ガルディア〉は持っているアサルトライフルを片っ端からハヅキストにぶっ放す。
ハヅキストは発砲して応戦するが、全く歯が立たない。
分厚い装甲に覆われた〈レオ〉と〈ガルディア〉にとって、銃弾なんてほとんど意味がない。
銃弾なんて、豆鉄砲と同じだ。
しかも〈レオ〉と〈ガルディア〉の攻撃は、ハヅキストを駆逐するまで止まらない。
オカンを殺し、無敵の“力”を手にしたはずのスナイパーも、〈ガルディア〉が背中に担いでいたバズーカ砲で、スナイピング・ポジションだった灰家のベランダごと吹っ飛ばされた。
そしてハヅキストの駆逐が完了した。
時間にして、3分も経っていないかもしれない。
かつてはあれだけ世間を騒がしていた厄介者どもが、3分にも満たない時間で全滅した。
その時間、俺はオカンが倒れている交差点の真ん中で、ぼうっと突っ立っていた。
戦闘は終わったが、〈レオ〉と〈ガルディア〉の視線が、俺に注がれる。
何だ? 次は俺か? 俺を殺すのか?
一瞬、そう構えてしまった。
しかし、〈レオ〉と〈ガルディア〉はこれまで通り、静止した。
赤い光で弱点も晒す。
何だよ? まるで俺に仕える、下僕のようじゃないか。
そう思った瞬間、まさかこれは、俺に隠された“力”なのかもしれない――つまり〈レオ〉や〈ガルディア〉といった兵器を自由に操れる“力”……それが俺に宿り始めたんじゃないか?
そんなことを思った。
でも、実際はそうじゃないことは、すぐにわかった。
〈妹ラジオ〉を知らせるスマホのアラームが鳴った。
俺はスマホを手に取り、画面を覗く。
そこにはさっき見たばかりの妹の顔が映っていて、テンプレ化した挨拶も抜きに話し始めた。
『皆さん、さっきのボーナスチャンスに関して、補足説明があります。
追加で“
でも、間違った人を殺してしまうと、ペナルティとしてその人の
簡単に言うと、近くにいる〈レオ〉や〈ガルディア〉などを使って、すぐに殺します。
だから気を付けてください。
世界中の監視衛星を使って皆さんを見張ってますからね。
え? もっと早く言えって?
そうですよね。ははは、ごめんなさい。忘れてました。
でも、まあ、人の命は大切にしましょう……ってことですよ。
それじゃ、皆さん、検討を祈ります! 生きていれば、またいつか!』
何が「人の命は大切にしましょう」だ!
バカにしやがって!
お前が一番、人の命を軽んじているだろ!
別の怒りが喉に込み上げる。
要するに、オカンはボーナスチャンスを手に入れるためのターゲットではなかった。
それなのに、オカンの命が奪われた。
――やるせない……
しかし感傷にふける間もなく――
『あ、そうそう――』
〈妹ラジオ〉には続きがあった。
『簡単だと思ってましたが、皆さんにとっては意外と難しいみたいですね、このボーナスチャンス。
それに無駄に同士討ちされては、“ユーザー”の皆さんの反感を買ってしまいますからね。
というわけで、皆さんに、新しいヒントを差し上げます!
そのヒントとは――
(――ドラムロール)
ジャーン!
それは、“自分の胸に聞いてみよう”です!
……え? それじゃ何のことかわからないって?
もう!
私からすれば、出血大サービスの超ヒントなんだよ!
と く に 、 お 兄 ち ゃ ん !』
俺の心臓が、肋骨を突き破りそうなほど脈打つ。
『そういうことです!
じゃあ、お兄ちゃん。私は待ってるよ。“あそこ”で』
それを言い残し、〈妹ラジオ〉は終わった。
“自分の胸に聞いてみよう”
その意味は、俺にはわかる。
というより、俺にしかわからない。
これはヒントではない。
俺に向けた、暗号なんだ。
俺はそっと、自分の胸に手を当てる。
それからシャツをめくり、俺は自分の胸を確かめた。
――そこには、
縦に刻まれた、
一つの切り傷があった。
それが何を意味しているのか?
わかるだろ?
思い出せ。
ああ、そうだよ。
あれは夢じゃなかった。
現実だったんだよ。
俺が病院で妹から「シャツ脱ぎ」という拷問を受けそうになったこと。
そして飛び降り自殺を図って植物人間となった“本物の妹”を、妹が殺したこと。
それらは全て、夢ではなく、現実だったんだよ。
俺の下半身から、力が一気に抜ける。
だから俺は、ガクンと膝をつく。
俺はこのことを現実として受け入れたくなかった。
だから自分の胸は、見ないようにしていた。
見ても、仮に妹がナイフで刻んだ切り傷が見えたとしても、見えてないフリをしていた。
“本物の妹”が、妹に殺されてしまった事実を受け入れたくないから。
でもだ。
まだわからない。
妹の暗号を素直に解釈すれば、ボーナスチャンスのターゲットは、“本物の妹”の可能性がある。
であれば、もしかしたら“本物の妹”は、まだ生きているのかもしれない。
……わからない。
わからないが、とにかく、答えは“本物の妹”が入院していた、あの病院にある。
俺は膝をついた状態から立ち上がり、動かなくなった母を運び、墓を作れる場所を探した。
病院がどの方角にあるかの確認も忘れない。
しかし、そのとき気付いたことがある。
それは、こんなことだった。
黄色いパーカーを着た、ハヅキストの死体だけが、ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます