市民公園

 ――悲鳴。


 それが市民公園から一斉に溢れ出す。

 そして人々が一斉に走り出す。

 しかし〈ガルディア〉は、彼らに容赦しない。

 背中を向けた連中から、その背中を片っ端から銃弾で貫いていく。


 ――逃げるんじゃない! 隠れるんだ!


 俺の防衛本能が、そう叫ぶ。

 俺はそれに従い、姿勢を低くしながら後退。すぐ傍にあった木の陰に隠れる。

 それと同時に、俺は背中で木の幹に銃弾が突き刺さる感触を感じ取る。

 いつまでもここに隠れてはいられない。


 じゃあ、どうすればいいって言うんだよ!


 何もできない俺は、自分に怒りをぶつけるしかない。


 ――落ち着け。


 自分にキレて何になる?

 いいか? ゲームを思い出せ。

『THE WAR LEFT -残された戦争-』をプレイしていたとき、俺はどうしてた?

 確かにこれは現実で、ゲームじゃない。

 でもゲームとは言え、現実で通用する戦術は、いくつかあるはずだ。


 考えるんだ!


 俺は木の陰から、ゆっくりとティルトローターの方を覗き見る。

 そして〈ガルディア〉の数と配置を確認する。

 〈ガルディア〉は全部で5機。

 これほど散らばった人々を一網打尽にできるほど、十分な数がいるわけじゃない。

 むしろ少ない。

 陣形もバラバラだ。

 だから必ず隙ができる。

 その隙を見つけて、逃げればいい。

 大丈夫だ。必ずできる。


 そしてチャンスが訪れる。

 俺のいる場所が、5機の〈ガルディア〉の調度、死角になったのだ。


 俺は両手で両頬をパチパチと叩く。

 そして深呼吸をする。


 今のうちにこの木の陰から向こうの茂みに身を投じれば、きっと上手くいく。

 茂みの中に入れば、あとは市民公園の外側に向かって慎重に移動すればいい。

 それだけだ。

 簡単だ。

 それから俺は決意に似た覚悟で腹をくくった。

 そしていざ、茂みに向かってダッシュを試みようとした――そのとき――


 一人の少女が、目に入った。


 それも〈ガルディア〉に狙われている。

 しかし、少女はそれに気付いていない。

 〈ガルディア〉に背中を向けたまま走っている。


 このままでは、少女は死ぬ。


 見捨てる、という選択肢だってある。

 でも、俺にはそれができなかった。

 だってその少女のことを、俺は知っているからだ。

 だから――


「チエちゃん!」


 俺は少女の名前を叫ぶ。

 そして走る。

 茂みのある方じゃない。

 チエちゃんの方だ。

 チエちゃんは俺の存在に気付く。

 しかし、そのときには既に、俺はまるでサッカーのゴールキーパーがボールをセーブするように、チエちゃんに向かって飛び掛っていた。

 それからチエちゃんを抱きかかえ、地面に転がる。

 チエちゃんは、俺の幼馴染の妹だ。

 兄はタケシという。

 幼稚園時代からの親友だ。

 だから、こいつの妹を見捨てることなんて、俺にはできない。

 でもだ。

 突然沸いた正義感だけで、俺はチエちゃんを守れない。

 俺はチエちゃんの盾になろうと、チエちゃんを包み込むように抱きかかえている。

 だが冷静に考えれば、〈ガルディア〉が持っているアサルトライフルほどの火力であれば、俺もチエちゃんも一瞬でミンチだ。

 そんな判断もできないほど、俺はパニくっていた。

 そして〈ガルディア〉は俺たちに銃口を向ける。


 ――さすがに、もうダメだ……


 その諦めと恐怖で、俺は目を開けられなくなる。

 情けない気持ちと怖さが、現実を否定したがる。

 でもどうせ、次の瞬間には俺もチエちゃんも、銃弾でズタズタに引き裂かれてしまう。

 そしてついに、その瞬間は訪れる。


 銃声が、鳴り響いた。

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