火を噴く機関銃

 俺は走った。

 それは妹も同じだった。

 身軽な妹は俺を追い越し、俺の前を走る。

 後ろで激しい銃声が鳴る。

 無数の銃弾が地面に突き刺さり、それが今にも俺の足を貫いてしまいそうだ。

 一方、妹は俺の前を走ることで、銃弾の嵐から免れている。


「おいハヅキ! 俺を盾にするな!」

「いいでしょ! その強化外骨格なら、数発当たっても大丈夫だよ!」

「そうかもしれないが、無数の銃弾にさらされる身にもなってみろ!」


 しかし俺の嘆きは妹に届かない。

 妹はウサギの格好をしていて、俺はそれを追いかける。

 おい。なんだ? この既視感は?

 これじゃあ、まるで『不思議の国のアリス』のプロローグじゃねーか。

 だが、案外この比喩は間違っていないんじゃないかと思う。

 なぜなら――


 ――前方に、トンネルが見えた。


 そしてトンネルの入り口に、俺と同じ強化外骨格を身に付けた人間が、ひとり立っている。

 そいつは俺たちに向かって、「トンネルの中に入れ」と合図する。

 確か『不思議の国のアリス』は、地面にあいた穴に落ちてワンダーランドへ行った。

 あのトンネルは、ワンダーランドへの入り口かもしれない。

 なんて妄想が一瞬だけ頭をよぎるが、俺は走ることに集中する。

 いくら強化外骨格を身につけているとは言え、無敵じゃない。

 銃弾を喰らい過ぎれば、装甲が貫かれて、死ぬ。

 そうなる前に、俺はあのトンネルに飛び込み、避難しなければならない。

 しかしだ。

 装甲車と俺との距離が、徐々に詰まる。

 このままでは、機関銃に蜂の巣にされるというリスクに加え、轢き殺されるというリスクが加わる。

 最悪の選択肢。

 死に方を選べたとしても、この2択は酷すぎだろ?


 身軽なハヅキは走るのが早いから、俺との距離が開くばかりだ。

 そしてもう随分と引き離されてしまった末、ハヅキはトンネルの中に飛び込んだ。


 トンネルの傍に立っていた人間も、それに続く。

 続いて俺もトンネルに飛び込む……飛び込みたかったのだが――


 なんとトンネルのシャッターが、閉まり始めた。


「……ウソだろ?!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る