オカマ先生の恋愛レッスン

柳屋文芸堂

第1話

 結局、婚姻届を出すことになってしまったけれど、これで良かったのか、いまだに迷っている。


 知り合ったきっかけは、キミヤの引越しだった。私は引越し業者に勤めていて、見積もりのために彼の部屋を訪ねた。

「お姉さん、すっごくイイ身体してるのね」

 キミヤは私の、筋肉でパンパンに膨らんでいる二の腕を見つめて言った。

「ありがとうございます」

「もしかして、荷物もあなたが運んでくれるの?」

「やりますよ。他にも何人か来ますけど」

「キャーッ ステキ!」

 グーにした手を振り回す。素なのか演技なのか、明らかにオネエキャラだった。

 引越し当日、荷物をひょいと持ち上げるたび、キミヤは目をハートにして私を見ていた。全てのダンボールを部屋に運び込み、料金の精算をする段になって、

「お姉さん、メールアドレス教えてくれない?」

「何かあればこの会社の電話番号に……」

「そうじゃなくて、あなた個人のアドレスが知りたいの。お友達になりましょ!」

 マリア様にお祈りするような格好で、ちょこんと首を傾げてみせる。不覚にも笑ってしまった。

「ねっ、いいでしょ?」

 私は会社の名刺の裏にアドレスを書いて渡した。キミヤの家を出て五分も経たないうちに、メール着信のメロディが鳴った。


 丸美って可愛い名前ね。マルちゃんって呼んでいいかしら? あたし、マルちゃんに食事をご馳走したいの。と言ってもあたしの手料理じゃなくて(笑)すっごく美味しいレストランがあってね、マルちゃんならきっと喜んでくれると思うんだ。

 引越しの間、マルちゃんに話しかけたくてウズウズしていたんだけど、スピードが早過ぎて無理だったわ(笑)あたし一人で荷造りしていたら、一生かかっても引越しが終わらなかったと思う。今日は本当にありがとう! またね。

 馬場君也より


 胸のあたりで手を振るキミヤが見えるようで可笑しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます