――ドドドドドドッ……ドタッ


 着地に大失敗した私は、フローリングの床に顔面から落下し、額を強打し鼻先を擦り剥いた。


 もちろんかめなしさんも、一緒に落下した。


「やだ、優香!?大丈夫……?」


 母が慌てて飛んできたが、何故か笑いを堪えている。年頃の娘が階段から落ち、女の命ともいえる顔面を強打し、鼻先を赤くしているのに、笑ってるなんて信じらんない。


「いたた……。たぶん大丈夫」


「本当にそそっかしいんだから……。もう気をつけてよ。ぷぷ、赤鼻のピエロみたいね。鼻血ブーにならなくてよかった。お掃除大変なんだから」


 あ、赤鼻のピエロとはなによ。

 鼻血ブーって、娘の心配より掃除の心配してるの?

 私は花も恥じらう乙女だ。


「かめなしさんを避けようとして、階段で足を踏み外したんだってば」


「もうどうでもいいから、さっさと朝ご飯食べてよね」


 どうでもいいって、

 どうでもいいって、

 失礼しちゃうな。


 母に叱られ、思わずかめなしさんを睨みつける。


 さすが猫。

 あの高さから転がり落ちたのに、怪我もせず平気な顔を……顔を!?


 へっ……かお……!?


『ごめん……悪かったよ……。でも、優香が尻尾を踏むから。あー……いてて』


 ――そこにいたのは……

 見たこともないだった。


 ブラウンの髪、キリッとした涼しい目元。瞳もブラウン。鼻筋はスッと通り、唇は薄くイケメンだ。高身長のスレンダーな体にフィットした白いスーツと茶色いソックスがよく似合っている。ただ、不自然なことに、首にはかめなしさんと同じ青い首輪をつけている。


 私は彼をガン見し、記憶を高速回転させる。私の家族にも、親戚にも、ご近所さんにも、こんなイケメンはいないからだ。


 周囲を見渡すが、一緒に落下したかめなしさんの姿はない。


 でも彼は『優香が尻尾を踏むから』と言った。さっきの状況を見ていたの……!?


「あ、あなたは誰!?私の家に勝手に上がり込んで。ママの知り合いですか?」

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