第21話「ニューヨーク、壊滅」
ほぼ無人の街と化したニューヨークは、まるで世界の終わりのゴーストタウンだ。
その上空では、巨大な影を落とすセラフ級パラレイド、サハクィエルが
同時に、
地球さえも
だが、前日の主砲発射との違いを
そして、仲間達と共に
「れんふぁ! 奴の動きが妙だ!」
『は、はいっ。主砲を発射しようとしてるんじゃ――』
「いや、違う……何だ? 全体がブロック構造単位で移動……いや、これは!」
瞬時に、【
空から
そう、違う世界線の未来で異星人と戦った、その敗戦を引きずる戦争の亡霊が。
あっという間に空中は大乱戦になった。
だが、統矢に迷いはなかった。
「どけよっ、どけぇ! ……数で押してくる奴には、慣れてるっ! れんふぁ!」
『ターゲット、マルチトレース……ロックオン。友軍機の高度を【樹雷皇】より下へ。グラビティ・ケイジ、上面へ集中展開!』
「両コンテナ、全弾発射! ぶちまけろっ!」
『マイクロミサイル、マーカー・スレイブランチャー、全発射。フルコントロールッ!』
コントロールユニットである97式【
宙へと舞い上がるミサイルは
追われる
「何機落とした! 味方はっ!」
『40機までは数えてたけど、えと……あっ、味方は無事だよ。
「急がせろっ! あいつは……あれは、変形しているっ! グッ!」
激しい衝撃に【樹雷皇】が揺れる。
撃ち漏らしたエンジェル級バルトロマイが、変形を織り交ぜながら複雑なマニューバで包囲してきた。その注意を引き付けられたのは
加えて、ニューヨーク市内のあちこちから対空砲火があがった。
アイオーン級やアカモート級、そしてエンジェル級各種が総出でお出迎えだ。
そして、
間違いない……ゆっくりと、非常に遅い速度で艦体が変形していた。
『何だありゃ! あのデカブツ、持ち上がってるぞ! ……立つ、気、なのか……!?』
『美作総司三佐だ! やることは変わらない……むしろチャンスだ。変形中の可動部、関節部に相当する箇所を狙う! たっぷり10
『了解っ! さあ、野郎共! 派手にパーティを始めるぜ!』
『カワイコちゃんの火力をたっぷり見舞ってやんヨ……ケツは
あっという間にサハクィエルを爆発が包んだ。
デストロイ・プリセットを選択時に使える、最も火力が大きな大型対艦ミサイル。総重量10tもの高性能火薬を詰め込んだそれを、攻撃隊の【轟山】は4本から6本装備している。通常であれば2本が限界、明らかな
だが、【樹雷皇】の重力制御システムの
そして、統矢とれんふぁの【樹雷皇】自体が、最大の火力だ。
『第一波、第二波、攻撃成功だよっ! 無事に離脱……次っ、第三波!』
「くそっ、変形が止まらない……あれだけの火力を浴びて!」
『見てっ、統矢さん。またあの小さなグラビティ・ケイジ……全体が大き過ぎるから、全身を
以前もそうだった。
あのセラフ級を建造した連中は、少しは頭が賢いらしい。
もっとも、全長1,200mの変形型巨大戦艦を飛ばしてしまうのは、
それも全て、もう一人の摺木統矢が仕組んだことなのだ。
「れんふぁ、マーカー・スレイブランチャーで周囲を追っ払え! ぶつけてもいい!」
『統矢さん……もしかして』
「グラビティ・ラムを使うっ! ブチ抜けないまでも、あのセコいグラビティ・ケイジを一箇所に集められる
以前の自分では考えられなかった戦術だった。
昔は、愛機【氷蓮】で戦場を
だが、今は違う。
守りたい人がいて、一緒に守りたいものがある。
れんふぁのコントロールで、精密な
その空気を飛び抜ける【樹雷皇】の、長い
全長200mの大砲、その先端へとグラビティ・ケイジが集中してゆく。
それは、重力場を束ねて紡いだ必殺の
「クソッ、本当に人型になってきた! けどっ! こいつをぶつけてっ、終わりだあああああっ!」
『全グラビティ・ケイジの60%を砲身先端へ集束……力場圧縮密度、400%っ!』
ドン! と激しい衝撃が統矢を突き抜ける。
れんふぁの悲鳴を聴きながらも、統矢は光る槍と化した砲身を突き立ててゆく。
当然のように集まったサハクィエルのグラビティ・ケイジが、
その隙に、本命の攻撃隊が艦底側に回り込む。
「くそっ、
『統矢君っ!』
「
瞬間、数万倍に引き伸ばされた一秒の中で、統矢は愛する者の名を呼んだ。
その声はもう、すぐ近くまで迫っている。
互いの
行き交う言葉以上に、情報と感情とが渦巻き入り混じりながらお互いに注がれる。
同時に、二人だけの
『統矢ああああっ!』
「レイル・スルールッ!」
『統矢君、こっちで処理します。今はサハクィエルを!』
それは、口早に叫ばれる言葉が
れんふぁ達には一秒前後にしか知覚できない攻防だった。
飛行形態から瞬時に変形したメタトロン・エクスプリームが、例の
あっという間に、攻撃隊の【轟山】が連続して
誰よりも悔しさを滲ませ、
『統矢様はやらせないっ! ボクの希望、ボクの未来……異星人に
『すみません、統矢君。すぐ黙らせますので、攻撃の続行を』
『まだ邪魔をしてっ! 五百雀千雪っ、いつも統矢様をたぶらかして!』
『攻撃隊の一部を私のグラビティ・ケイジへ。統矢君、どうかそのまま』
『無視するなっ! ……前から気に入らなかったんだ、お前っ!』
ゆっくりとサハクィエルの巨体が、持ち上がる。
左右に巨大空母を係留させたような飛行甲板も、それぞれ腕へとなった。
それは、長大な砲身を肩に背負った異形の巨神だ。
その
すぐに統矢は、一度機体を翻して高度を取る。
「れんふぁ、戦況は! 攻撃隊は」
『損耗12%……まだ対艦ミサイルを残している小隊が四つ、だけど』
「わかった、温存するよう伝えてくれ。……少しわかってきたぜ。このデカブツの沈め方がな。そのためにも、千雪っ!」
絶叫を
慣性制御が追いつかないほどの高速バレルロールで、群がるパラレイドの中を【樹雷皇】は飛ぶ。肺が潰れるかと思う中で、統矢は目を見開いて
既にもう、【樹雷皇】に残された火器は少ない。
副砲でもある
その可能性を教えてくれたのは、他ならぬ眼前のサハクィエルだからだ。
「千雪、メタトロンを抑えてくれ、頼むっ! れんふぁは味方機に注意を……派手にブン回すから、
すぐに千雪の【ディープスノー】が、背の暗い光輪を広げて飛び去る。
だが、DUSTER能力者同士の戦いは常に未知数、そして無限の危険性を加速させてゆく。以前、統矢もレイルとの戦いで感じた。互いが互いの全てを読み切った、極限の集中力が見せる
だが、今の千雪には統矢がついている。
もう絶対、一人にしない。
そして、千雪は絶対にレイルに遅れは取らない、そう信じられる。
『統矢さん! サハクィエルが市内に降下! た、立ちますっ!』
「本当に変形しちまいやがった……だがっ、かえってわかりやすい! 人型だってんなら、狙うは一つ! ブリッジ……いやっ、
再び【樹雷皇】の主砲先端部にグラビティ・ケイジが
先程は駄目だった。
そしてもう、人型へと変形を完了したサハクィエルが大地に立っている。その下でニューヨークの街はもう、火の海だ。揺らぐ業火の中を、我が物顔でパラレイドが
その全てを消し飛ばすため、サハクィエルの直上まで上昇して……統矢は真っ直ぐ剣を突き立てるように【樹雷皇】を逆さまに加速させた。
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