第20話「ファースト・アタック」
巨大な【
道中、パラレイドとのエンカウントはなかった。
『美作総司
今、ティアマット
本来の搭載能力を超えた過積載は、【樹雷皇】のグラビティ・ケイジが可能にした。
重力波に包まれているので、合計40tもの重装備を搭載しても行動可能なのだ。
『
『了解です、三佐。お守りします……命に
『はは、
『えっ!? あ、あああ、あの、美作総司三佐、あのっ!』
おっ、と統矢は思ったが、多分駄目だろうなと苦笑する。それは【樹雷皇】の本体コクピットにいる
今の【樹雷皇】は正しく、
搭載された火力は、地球上のあらゆる兵器を
『横浜に中華の美味しい店があるんだ。戦いが終わったら……みんなで行こう』
『……へ? み、みんなで、ですか?』
『そう、部隊のみんなで。朝まで飲んで騒いで……あ、いや、雅姫二尉はそういうのは嫌いかい? その、僕は家が
『……もぉいいです、それで。今は、それでいいです』
大人達の笑いが連鎖する。
ここにはもう、恐怖も
迫る死地での激戦を前に、なんて穏やかな気持だろう……統矢は改めて、人類と地球の命運を賭けた戦いを振り返る。
それは皮肉にも、人間の尊厳、人類の団結を再確認させる戦争だった。
同じくらい、献身と勇気、友情と愛をも痛感させられたのだ。
『統矢さん、作戦空域へレンジ・イン……前方に無数の敵影!』
「よし、始めるか……対艦攻撃部隊を援護する! れんふぁ、いざとなれば……こいつをぶつけてでも、あのデカブツを
『統矢さん……』
「大丈夫だ、俺と千雪がみんなを守る。お前を必ず、守るから」
徐々に景色が街並みへと変わってゆく。
猛スピードで飛び去る大地に、建物が増えてゆく。
そして、
れんふぁの声が悲鳴のように響いたのは、その直後だった。
『
即座にれんふぁが、グラビティ・ケイジをコントロールする。頭上へ厚く展開しつつ、周囲に浮かべた友軍機を先に進める。
同時に、太陽の中から
肉眼で目視できるほどの、強力な重力干渉で空が暗く光る。
そして統矢は、回線の向こうに少女の絶叫を聴いた。
『統矢ああああああああっ! また、統矢様の邪魔をっ、してええええええっ!』
絶え間なくビームを浴びせてくるのは、レイル・スルールのメタトロン・スプリームだ。最強のセラフ級と呼ばれるメタトロンは、飛行形態へと変形しての高速移動で迫ってくる。
真上からの攻撃をグラビティ・ケイジで守りつつ、統矢も集中力を
【樹雷皇】が危険な領域へと増速すれば、自然と統矢の持つ異能の力が覚醒していった。
「レイル・スルールッ! 今はお前に構っていられないんだ! やめろっ!」
『統矢様のところには行かせないっ! DUSTER能力に
「ふざけるなっ! 何人死んだ?
音速を超えるスピードで、真下へとメタトロンが通り過ぎる。
同時に、急制動で地表スレスレを飛びながら機首を持ち上げ、
すぐにれんふぁが、グラビティ・ケイジ内の味方機を
そして、
メタトロンの構えた長銃身のライフルが、天を
膨大な熱量がグラビティ・ケイジにぶつかり、【樹雷皇】の巨体がビリビリと震える。
だが、統矢は止まらない。
仲間と共にニューヨークへと向かう。
その背を強く押し出す声が、前線から戻ってきた。
『皆さんはニューヨークへ! メタトロンの相手は……私がします』
背に暗い
一回りも二回りも大きな
メタトロンもまた、グラビティ・ケイジを展開して重力弾を防ぐ。
『お前っ! その
『重力制御安定、グラビティ・ケイジ展開……いい子ね、【ディープスノー】。では……
『お前か! お前がぁ……統矢を、たぶらかしているんだ! 統矢様の少年時代を! またお前がっ!』
千雪の【ディープスノー】が、強力な加速でメタトロンに肉薄する。
以前の89式【
振るわれた両肘のブレードが
二人の激闘はあっという間に背後へ飛び去った。
だが、無線を通じて二人の少女の戦いが聴こえてくる。
『そう、確か……五百雀千雪! いつも統矢様の邪魔をしてきた女! れんふぁ様だって、統矢様から奪って、洗脳して! こんな戦いの中に放り込んで!』
『それは
『それと? 何だ、何だよっ! 消えちゃえよ! ボクのDUSTER能力は、見ているぞ! 感じる、
『一人だけ地獄を見てきたような物言い、不愉快です。統矢君以外では初めてですか? DUSTER能力者と戦うのは。だとしたら……
統矢は耳を疑った。
千雪が、DUSTER能力を?
この、自分が持つ呪われた力を、千雪もまた手に入れたのか?
だが、納得してしまう。
納得できてしまう。
千雪はあの激闘の中で皆を逃し、
DUSTER能力……死線を突破せし兵士の
「千雪が……俺と同じ、DUSTER能力者……」
『統矢っ! 前を見ろ! 俺の妹に……千雪に任せて、前へ進め!』
すぐ側を飛ぶ
統矢は黙って、操縦桿を通して自分の意志を【樹雷皇】に伝えた。
横に並んだフェンリル小隊の仲間と、今は前へと進む。
信頼して背中を預け、千雪に任せて翔ぶ。
「れんふぁ、千雪のことをモニターしといてくれ。俺は……目の前に集中するっ!」
『う、うんっ! 大丈夫だよ、千雪さんなら……あと、前にエンジェル級が多数! 地上にもアイオーン級やアカモート級が無数に!』
「突っ切るぞ! このままサハクィエルまでブッ飛ばす!」
あっという間に砲火が部隊を包んだ。
ニューヨークの街並みは、あちこちから
空を
そんな統矢の側から、チームの仲間達が離れていった。
『よーし、フェンリル小隊各員! ちょいと命、
『了解であります、辰馬小隊長殿っ! 自分はいつでも準備万端であります!』
無言で緑色の【幻雷】
彼女は今も震えているだろうか?
だが、震えながらでも彼女は銃を手に取る。
家族を奪った背中の傷を背負って、戦い続ける。
『統矢、俺達を降ろしてくれ! 地上で戦う。ここでインターセプトしてやっから、背中は振り向かないでいいぜ!』
「頼みます、辰馬先輩! 桔梗先輩も! あと、ラスカ!
『だーれに言ってんのよ、誰に! ハン、
四機の
『っしゃあ、
あっという間に背後へ仲間達が飛び去った。
そして、徐々に進む先に巨体が見えてくる。
全長1kmを超える、
その姿に変化が見えて、統矢は驚きと同時にさらなる加速で突っ込んでいった。
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