第10話「そして地獄が無限に広がる」
巨大な鋼の
大地を
ホワイトアウトするコクピットが、ビリビリと震える。
永遠にも思える強力なビームの照射は、数分続いた。
ようやく光が集束して消えると……誰もが言葉を失う。
『各機、現状維持!
『フェンリル小隊、全機健在。我がティアマット
『お
『エンジェル級、多数降下中! 来るぞ、野郎共! 戦線維持、
富士の樹海に地獄が口を開けていた。
巨大な戦艦型パラレイドが放ったビームが、大地に大穴を現出させたのだ。
そして、
流石の
『全軍戦闘継続、そのまま聞け! ……たった今、ハワイが周辺海域もろとも消滅した』
何を言っているのか、すぐに統矢は理解できなかった。
ハワイは日本から6,000km以上離れている。
だが、それは直線距離であってそうではない。
そして、あの巨大な空中戦艦は文字通り最短距離で攻撃したのだ。
高出力の戦略級攻撃が、地球の中を貫通してハワイを消し飛ばしたのである。
あまりのことに、思わず統矢も動きが止まった。
その緊張を、短く叫ばれた声が引き裂いた。
『統矢っ、避けてっ!』
避けると意識した瞬間にはもう、極限の集中力が統矢に戻ってくる。瞬時に判断した回避モーションは、エンジェル級の巨大な
新種のエンジェル級の中でも、両の拳で襲い来る格闘型だ。
統矢が愛機に【グラスヒール】を構えさせる。
だが、先程の声の主が
『悪いけどっ、殴って蹴って、はぁ! 見慣れ、てんの、よっ!』
ラスカ・ランシングの【
瞬時に彼女の操るアルレインが、大型のダガーナイフを敵の
その間隙へと、統矢は
「悪い、ラスカッ! こいつでぇ、オオオオオオッ!」
鈍い手応えと金切り声。
重金属が断ち割られる感触が
縦に真っ二つになって、まだ名を持たぬエンジェル級が沈黙する。
だが、互いに背と背を
エンジェル級は人型の機動兵器である点のみが、セラフ級と同じだ。だが、一騎当千の戦略兵器であるセラフ級と違って、大量生産による物量攻撃をしてくる。そして、徐々にその周囲で人類側のパンツァー・モータロイドが追い詰められていた。
『統矢、アイオーン級! それとアカモート級も! 来るわ』
「そっちは任せた! クソッ、どんどん増えていく……上のデカブツは!?」
次々と敵を処理しながら、統矢は天へ鎮座する巨大なパラレイドを見上げた。
先程艦首を左右に開いてビームを放ったが、今は元通り閉じている。そして、轟音を響かせ浮かぶ姿は、まさしく空中要塞だ。
その巨体は次々とエンジェル級やいつもの無人型を吐き出し続けていた。
「クソッ! れんふぁ、まだか? 奴をやるには【
【氷蓮】を含む一部の
恐らく今、後方では急ピッチで出撃準備をしている
れんふぁも、【樹雷皇】のコクピットで戦っている。
ティアマット聯隊の全機をまず、【樹雷皇】に登録しなければいけないから。
『統矢、泣き言なら聞かないわよ? 片っ端からブッ潰してやるわ!』
「気をつけろ、ラスカ! 数が多い、多過ぎる。……なら、頭を潰せば」
ラスカは舞うように改型四号機を躍らせる。彼女がアルレインの愛称で呼ぶ機体は、限界まで軽量化されたネイキッドなボディで死を歌わせた。
あっという間に統矢の周囲で、迫るパラレイドが次々と爆発する。
未来の技術で作られ、小型の光学兵器を標準搭載した機動兵器群……その上、人型で人間が乗っているエンジェル級が徐々に戦場の主役になりつつある。人類同盟が築き上げてきた対パラレイド用のドクトリン、戦術ニッチェは無意味になり始めていた。
それでも、相変わらず肉薄しての格闘戦は有効である。
数で押してくる、その中へと飛び込み周囲の全てを薙ぎ払う……距離を詰めてビームを封じることで、ようやく人類はパラレイドと互角に戦えるのだ。
『統矢ぁ、生きてるか!』
「
『こっちも手一杯だ! 美作三佐とティアマット聯隊が
「了解っ!」
『道はこっちでこじ開けてやる。戦艦だか要塞だか知らねえが、高度数百メートルに浮かぶデケェ
呼応するように、ラスカの突進力が鋭く
ダイレクトサポート、援護射撃……正確無比な銃弾が次々と打ち込まれた。
「
『援護は、お、お任せを……摺木君、いっ、行ってください』
ガチガチと歯のなる音が聞こえる。
深刻なPTSDと戦う彼女にとって、パラレイドの敵意で満ちたこの戦場は地獄の筈だ。統矢にも今、涙に濡れた美貌が手に取るようにわかる。それでも【
背を守られて進む統矢は、中空の巨大パラレイドへの道を
スラスターを全開に、全力の飛翔で流星になる。
すかさずビームの狙いをつけようとした敵が、眼下で次々と爆発した。
『ボウズを援護しろ、死なせるな! ガキを見殺しにしたとあっちゃあ、ティアマット聯隊の
『任せたぜ、ボウズ! 後ろは見なくていいぞ!』
『強引でもいい、体を浴びせて敵へとブチ当たっていけ! ボウズへビームを撃たせるな!』
みるみる眼前に巨大な構造物が迫る。
だが、真横に何かが浮かび上がった。
敵機、肉薄……密着の距離。
回避にも限界があるし、それは
しかし、統矢の【氷蓮】にガンポッドを向けたまま、エンジェル級が爆散する。
破片を振り撒く爆煙の中から、一機の97式【
ティアマット聯隊で唯一、紫色のパーソナルカラーに塗られた機体だ。
『統矢三尉、援護します! 突っ込みなさい!』
「雅姫二尉か、助かる!」
『このデカブツが軍艦なら、ブリッジに相当する部分が上面にある可能性が高いわ。そこを叩いて!』
「了解っ!」
統矢がちらりと横目に見た【轟山】は、普通の機体よりシェイプされて装甲が軽量化されている。ラスカの改型四号機ほど極端ではないが、もともとパワフルなトルクとパワーを持つ重装型のPMRだ。そのウェイトレシオは軽量化で劇的に
雅姫は両手で構えた
まるで
「流石は【
【グラスヒール】を一度背の
そうして統矢は、巨大な艦体を上へと回り込んで着地した。
巨大な丈夫の平面構造は、その全てが装甲だ。そして、やはり雅姫の言った通りに中央に
統矢は即座に、初手から最大攻撃力で狙いを定めた。
「【グラスヒール】、アンシーコネクト……モード
鞘が割れて広がり、巨大な
【グラスヒール】に備え付けられた二丁のビームガンから、光の
巨大な単分子結晶をレンズにした、一点集中型の強力なビーム攻撃だ。
真っ直ぐ巨大パラレイドの中心部を狙って、必殺の一矢を放つ。
だが、その瞬間を狙ったかのように、鋭い殺気が頭上から落ちてくる。
身を
避けつつ、光の矢を解き放つ。
間近での射撃だったが、回避運動で狙いがそれた。必殺の一撃が遠くの空に消える。そして……統矢の前に
「外したか……それより! この機体は――」
そこには、長大な砲身を腰の前に寝せて、両手を添えて統矢を
その名は、メタトロン。
究極の天使を名乗るセラフ級は、以前に見た時よりさらに武装が増えていた。
そして、広域公共周波数に聴き覚えのある声が満ちる。
『統矢、久しぶりだね。今日は……今日こそは、ボクが統矢から戦いを奪う! 統矢様の戦いのためにも、統矢は戦っちゃいけないんだ!』
以前、アヴァロン島で戦ったソロモン作戦の最終盤……一度は破壊したものの、コアとなるブロックが分離、新たなパーツと再合体した姿。その時よりも、胸部や脚部、そして背負ったバックパックが大型化している。
巨大な方舟の上で今、統矢はレイル・スルールが操る最強のセラフ級と対峙していた。
『統矢、武器を捨てて。このメタトロンには……メタトロン・エクスプリームには勝てないよ。ねえ、ボクの話を聞いて。本当の敵は、本当に戦うべき敵は――』
「レイルッ! 邪魔するなら潰すぞ……俺はもう、誰とでも戦える! 例えお前とでもだ!」
変形して畳まれた鞘から【グラスヒール】を解き放つ。
巨大パラレイドの甲板上で、熾天使の長へと統矢は愛機を突っ込ませた。
それを見守る視線が、方舟の心臓部から
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