肉体の重さ

 独居房の更なる底――底など無いのだが、此度は『そう』解釈すべき――に冒涜以外が潜んで在る。欷泣の音も消滅し、欲望が踊り狂う現実への皮と肉。私は此処の管理を任された、酷く『不変的』な存在だ。勿論、輪郭は常に人間を保ち、偉大なる……最低たる王の嗜好を満たして佇む。されど私は何時崩壊するのか解せぬ、脆弱で曖昧な重さの所有者。王曰く、貴様には魂よりも肉体が相応だ。王の脳髄は理解し難いが、私はおそらくに真実なのだろう。兎角。私の仕事を見学するのだ。経験すべき事柄も多量だと説く。冒涜的な世界故に仕事も無意味に融解するのだが! 其処は王の命令で在る。重ねて。私は現状に誇りを抱いて取り組むのだ。君も私の迷宮に案内しよう。貪り尽くす為の唾液も胃袋も無い。安心して私を覗き込むが好い――先ずは此処だ。仕事場までの螺旋模様空間。赤色の回転が精神を撹拌し、己の魂を削り始める感覚よ。正気度だったか。阿類あれを扱う時の骰子に近い。心地酔い……自我を殺される体験だ。たまらないな! ああ。深呼吸せねば。私が私を乱して、仕事にも成らぬ。さあ。果て。漸く辿り着いた。辿り憑かれた。刮目せよ。傾聴せよ――此処が底の仕事場だ。悲鳴を上げる肉の塊。絶叫する殺戮機械。蠢動する麺麭じみた寄生アイホートだ。可笑しい。何もないぞ。無いとは何事か。王よ。私の存在は!


 ――いは頂からの落下。

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