所以

 旅人よ。如何か。私の言葉に耳を傾け給え。旅人よ。如何か。私の絶望に精神を傾け給え。旅人よ。賢き夢の旅人よ。如何か。虚空に投げる、破滅の詩を聴き給え。警告だ。私からの警鐘だ。悪夢に魅了された人間よ。総てを諦める前に。総てが後悔の山に成る前に。最悪の事実を聞き逃さず、己を確固と維持し給え。人類は現単体で成立する生命体に在らず――諸君夢見人が理解して在る通り――我々は夢の存在で『普遍的』を知った。数多の感情は旧き良き世界で在り、境界すらも曖昧だと思考可能だ。階段の先には美しき緑。不可思議な小動物ズーク諸々、数多の冒険が満ち溢れて滝の如く。されど。地球の神々は管理された。最も尊敬すべき夢見人ランドルフの武勇伝を思い出すが好い。這い寄る混沌は悉く邪魔者を嘲笑い、己の好物自滅を齎して往く――何と。慈悲深い無貌神ナイアルラトホテップよ。彼等は発狂で物語を終えるのだ――のだ。問題は彼とは別に在り。夜鬼ナイトゴーントの群れも化鳥シャンタクの叫びも赤子の鳴き声に過ぎぬ。ならば何が最も恐ろしいのか。次に続く愚者どもに伝授しよう。放棄だ。放置だ。私を発狂させず。私を殺さず。私を無視する足音どもだ。食屍鬼の騒ぐ宴は頭上。奴等の耳は腐って落ちた。爛れて墜ちた。私の頬を濡らした、唯一の食糧――糞。踏み潰されたいのだ。だが。声が脳髄を侵蝕する――貴様は正常だ。正常で在り続けるのだ。死も在り得ない。正常で。無知で。永劫に――五月蠅い。蟲の所業が。蛆蟲ドールどもの遊戯放置所以なのだ。

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