呪い

 彼は永劫の旅人だ。彼は無限なる世界を渡り、己の成すべき事柄を知ったのだ。されど彼は使命を忘却した。故に彼は神を失い、残酷な『個』に堕とされたのだ。此処にはクトゥルーの夢が蔓延り、彼は茫然と悪夢の檻に鎖された。神は彼を旧支配者に投擲したのだ。哀れな彼は心を殺され、淡々と神の怒りを受けた。海底都市の愚痴を世話するのだ。彼は彼の主人――旧いが。新しい――を誘った。誘いはクトゥルーの精神を安定化させ、世界の平……秩序を続行に導く。彼は絶望の淵に佇む貌。如何か。神の気紛れが方向転換を! 酷いものだ。彼は邪な触手。ぶよぶよな肉塊。飛散した膿を直さねば『死』に至るのだ。発狂に到るのだ――彼は耐え切れず。敵対すべき存在に反抗を晒した。結局は不可能だったのだ。案の定。クトゥルーは夢の世界を解放し、彼の現を殺戮した。彼は暗転する。彼の物語が融けて往く。永劫の旅人は刹那の反芻に堕胎し――時が流れる。血が流れる。精神が。星辰が! ああ! 神の与えた仕事は遂に! 最悪なる終焉を!

 彼は永劫の旅人だ。彼は無間なる世界を渡り、己の為すべき事柄を覚えたのだ。されど彼は運命を冒涜した。故に彼は支配者を失い、残酷な群れに放たれたのだ。此処にはノーデンスの現が蔓延り、彼は柔らかな夢に束縛された。支配者は彼を旧きに投擲したのだ。哀れな彼は心を奪取され、淡々と支配者の命を受けた。霧の家を隠蔽するのだ。彼は彼の主人――旧いが。新しい――を育んだ。育みは幼き神を悦ばせ、世界の混沌……無秩序の意味を潰す。彼は望みの虜と化した。如何か。幸せな彼に刹那が嗤わずに! 素晴らしい現実だ。彼は偉大なる白き髭に『夜の鬼』を捧げるのだ――彼は盲目と成った。ノーデンスは海豚に跨り、彼の肉体だけを弄り尽くす。彼の精神は幸福の渦に残された――時が流れる。彼は永劫の旅人だ。彼は無限なる世界を精神で渡り、己の成すべき事柄神の我儘を知ったのだ。されど――そんなものは糞喰らえだ! 故に神or支配者を失っ――無完。

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