未=ゴ

 悪夢を視たのだ。私は何処か。理解し難い空間で、浮遊する肉の塊を視たのだ。脈動する肉は思考を垂れ流し、私の精神に語り始め――其処で語る『意味』は解らず――奇妙にも幾日か過ぎ去った。私は現が幾月幾日幾時間か判断不可能なのだ。所以も脳髄に在らず、坐した混迷ノイズだけが囁いて。何故だ。妙に眠いぞ。私の精神が悪夢を望んで在るのか。莫迦な。人間が恐怖を欲する生命体とは在り得ず――次は甲殻類だった。彼等は悪夢に彩……空間に『もの』を成して在った。手術台だろうか。カチン。カチン。蟹の如き鋏が鳴る――覚めた。本当に解せない。私は彼等の存在を理解したが、私に『相応しい』とは到底『信仰』し難いのだ。私は地球人類の一個体で在り、悪夢の貪る肉塊叡智とは……可笑しい。私は何を思考する。否。私は感情を失ったのか。如何にも『色欲』が薄れた気分なのだ。異性の魅力が脳を脱し、私は嘔気を催して――悪夢が再開された。茫々たる空間。宇宙の神秘。暗黒で漂うユッグゴトフ――食欲が消えた。胃袋が物を拒絶する。胃液すらも不快で堪らない。さあ。私の安らぎは悪夢だけで――招かれた。ああ。彼等の歓迎する囁きが――私は私を棄てた。脳髄に蔓延する胞子が『歓喜』するのだ。遂に飛翔する時が! 誇り高きユッグゴトフの一員! 私は宙を!


 ※※※※:地球ニテ石ヲ発掘。帰還スル際。奇妙ナ死骸ヲ発見シタ。

      萎ビタ果実――地球ニ生息スル植物――ニ似タモノ。

      地球人ニモ視得ルノダガ。

      オソラク。我々ノ胞子ガ原因ダト思ワレル。

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