我、葬々を望む

 碑に棲む怪物が姿を晒す時、幽鬼どもが悪夢を僕等の領域に惹き込むと聴いた。何処かの愚か者が叫び声を発した刹那、狂喜乱舞の所業が魅力的に映ると聴いた。僕は奇妙な噂話――それも。とびきりの黒艶憑き――を脳裡で垂れ流し、襤褸々々な道を歩んで在る。表現的には可笑しいだろう。されど僕の言葉は正確で、誰もが頷く『道』なのだ。家々は無い。幅も曖昧。ああ。墜ちるような虚空が道を包み……止めだ。止めだ。覗くのは自殺行為だと理解した。渦巻き、目眩く宙に呑まれるのは厭なのだ。綱渡りは恐ろしい行為だが、僕は解き難い安堵の最下の中。天蓋を仰げば楽園が在った。美貌を備えた巨大なるものが、歓喜を湛えて手招く。僕は彼方に向かわねば成らない。生れない。そう。僕は誕生する生命で在ったぞ。改めようか。僕は不在する生命の音――おい。おい。待ってくれ。僕の在処は其処ではない。僕の肉体を燃やさないでくれ。僕の頭部を打ち砕くな。司祭に化けた化け物が! ああ! 葬々されるまで待って!


 御名を叫びながら、幼児を振り回し――黒の碑。

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