転思

 真正なものが叫ぶ。世に神聖な事柄は皆無だと。真正なものが嘲る。世に信成な術は皆無だと。真正なものは嘆く。ああ。此処には『何も』在り得ぬと。真正なものは語る。実を結ぶのは糞の地だと。真正なものは騙る。悪魔に身を委ねても、天使は諭す仕草も為さぬ――私は真正の言葉に混乱し、脳髄を床に放棄した。勿論比喩だ。呆けた頭を傾けるのは心地好い……幾分が経った。真正は満足したのか、場に居らず。私は解放感に感謝を込める。清々しい瞬間よ。心に在るべきは制の忘却なのだ――夜は深い。黒の板に黄金で落書き。不可能だ。漂うのは灰色の『絵具』だけ。さあ。此度は如何なる芸術が善い。私は筆を執り、恍惚の領域まで『己』を吊り上げる。踊る妖精。回る遊具。仔の集団が嬉々として『板』に駆け始め……可笑しな事柄が起きた。文字通り『笑う』声が耳朶を擽ったのだ。きっと。私も仲間に入れて遊びたいのだろう。ならば応えるべきだ。私は跳躍し。黒の中心へ。


   ――真正なものが吐いた。

   ――目眩く世界を吐いた。

   ――神聖。信成。何も無く。

   ――糞の地を彩る、悪魔い声。

   ――板に描かれた天使。現を侵す。

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