愚者の石

 私は度々、思うのだ。世界には賢者の石が存在する。私は度々、想うのだ。世界には賢者の石が存在する、されど世界に賢者は在らず。ならば石とは何物か。答えは単純『意思』『意志』の塊たる『人間』なのだ。人間とは賢者を装った意思の皮で成り、意志の込められた物だと思考可能。されど人間とは脆弱なものだ。石とは形容し難い玩具だ。時に死を。時に生を。時に進化を。時に退化を。時に繁栄を。時に頽廃を――矛盾する精神に『いし』など皆無。ならば人間とは殲滅すべき対象か。否だ。彼等は永遠の如き過去を有する。如何なる脅威でも。如何なる驚異でも。蜿蜒と無意味な維持を為せた。故に私は思うのだ。故に私は想うのだ。人間に渡すべき褒美は何か。旧支配者たる私が、支配者盲目に与えるべき褒美は何か。難題で在る。彼等は叡智を冒涜する。彼等は力を冒涜する。既に齧られた果実の片方は『腐って』果てた。ああ。腐ったものか。彼等には腐敗が相応しい。最近の彼等は破滅行為。破壊行為に悦びを。台無しに歓喜を覚え、震えて在ったのだ。自滅。彼等に齎す贈物は『進退』を永劫と成す呪いだ。旧支配者たる私に出番は要らぬ、支配者同士の嬲り愛こそが最も嘲笑うべき――貴様は何故。自身を忘れた――音だ。音が聞こえる。旧支配者。私の精神に這入る音だ。糞。胎が煮える――阿呆な貌だな。旧支配者。貴様等は自身を忘れたのだ――黙れ。私の存在を侮辱するのか――好いか。旧支配者。貴様等こそが人間だ。支配者だった存在よ――何を吐くのだ。ならば其処で蔓延して在る人間は。触手を蠢かせる『いし』は――旧支配者。支配者とは。神の孕んだ有象無象よ! 愚者――理解した。音の正体は私だったのだ。私は私の輪郭を確認する。不可能だ。何せ。肉体が動かない。目玉だけがグルリと廻る。そうだ。其処で蠢く人間『支配者』は――Ghatanothoa! 私は愚者の石。

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