2014/11/13 18:10:15

「今はそんなこと、どうだっていいだろう。愚図が」


 薄ら笑みを浮かべ、小林先輩は肩をすくめた。小栗は何も言わなかった。


「して、柚希の事、本当に好きだったんだな」

「ああ」

「だったら口調ぐらい真似してやれ」

「何?」


 訝し気に小栗が聞き返す。スマートフォンを取りだした。一瞬だけ画面が見える。あの裏サイトだった。


「この裏サイトのスレッド名『0208』は柚希がいたクラスだ。Kが柚希なのは私にもわかった。だがお前、わざと用務員室に向かう、と言ったろ。用務員に疑いを向けさせるために」


 どういうことだ。あの文面は全部柚希さんが打ったんじゃないのか?


「あいつは真面目だったから文末には絶対、句点をつける律儀なやつだった。だが、これを見るに9月1日の19時54分の投稿からそれが無くなっている。用務員室に行ってみるというクラスメイトのオーダーにない場所に行くのも変だ」


 ここで一息置き、先輩は言った。


「犬嫌いだった用務員が犬を殺したのは想像に容易い。それがばれそうになって柚希を殺した。この思考に辿り着くように誘導した。違うか」

「ああ、そうだとも」ふん、と自嘲気味に鼻で笑う。「よく分かったな」

「だが、なんで今になって事件を明るみにした。黙っていればやり過ごせただろう」


 俺もそこは気になっていた。そもそも、小栗が噂話をしなければ俺が興味を持つことは無かったのに。


「探偵たる君から出る言葉じゃないね、紫雨。いいだろう、教えてやる。あの野郎と喧嘩したからだ。ついでにいえば任期の終わりが近づいてきていた。遅かれ早かれ、明るみにはなっていたとも」


 そういえば事情聴取を受ける前、そんな話を聞いていた気がする。そんな些細な理由で明るみにしたのか。

 小栗は首を傾げ、呟いた。


「監視カメラの映像は俺が見ているうえで除去させたはずなんだがな」

「用務員が白状した。コピーがあると」

「なるほどね」


 小栗はまじまじと先輩を見た。


「君は柚希よりも聡明で美しい」


 小栗の言葉を聞いた先輩が、さも当然と言うように大きく頷いた。


「当たり前だ。私は大よそ何でもこなせる。愚妹も嫉妬するほどの容姿を持つ。私は完璧で、天才だ」

「だが」


 小栗がコートの下から何かを取りだした。冬空の下でそれが光った気がする。瞬時、俺は思いっきりスイッチを押した。それを見た先輩はふん、と鼻で笑う。


「ナイフか。これ以上罪を増やして何になる」

「うるさい!」


 叫ぶとともに小栗が突進していく。思わず目を瞑ってしまった。

 だが「え」という間抜けな声が上から降ってきた。明らかに男の声に、思わず目を開ける。そのまま、豪快な音とともにたたきつけられる。

 綺麗な背負い投げ。ナイフが俺の目の前に降ってくる。かまわずに先輩に駆け寄った。大丈夫なんですかと声をかける前に、小栗の悲鳴が聞こえた。このまま先輩が力を入れれば、手首がおれるだろう。


「平気ですか?」


 にやりと不敵な笑みを浮かべ、先輩は俺を見た。


「言っただろ、私は完璧な天才なんだって」

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