2014/11/11 12:46:09

 先輩が立っていたことに特段、驚きもしなかった。夢のあの人と目の前にいる人は、心の奥底で別人だと認識していたようだ。とりあえずゆっくり話がしたいと申し出た俺に、先輩は商店街そばの喫茶店を指さした。

 商品を運び終えた店員が立ち去った後、一応、確認してみる。


「本当に幽霊ではないんですよね」

「アイスコーヒーを飲んで、ケーキを食べるアグレッシブな幽霊がいてたまるか」


 そう鼻で笑われた。それもそうかもしれない。思い直してココアを飲む。舌が火傷しそうなぐらい熱かった。


「あの、そろそろ説明してもらえませんか」

「そうだな。別に隠す必要もないし」


 閑散とした喫茶店の店内で独白が始まった。

 三年前。小林先輩__小林 紫雨しぐれ先輩の妹、柚希さんが失踪した。学院の制服を着、家を出てから帰ってこない。もちろん、失踪届を出した。先輩は妹の行方を突き止めようと親を説得して、何年も留年したらしい。先輩がいなかった理由は家族と今後について考えていたようだ。


「よくそれが許可されましたよね」


 小林先輩、もとい小林 紫雨さんはケーキを食べて小さく笑った。


「まあな。別にはした金らしいからな。探偵よりも私を信頼するなんてね」


 うん? 今、先輩は何て言った。気にしなかったことにしよう。


「先輩」


 俺は正直に全てを話した。先輩が消えてから用務員が逮捕されるまでの話と、あの夢の話を。話しているうちに思い出したことがあった。

 一昨日。小栗から聞いた話をしたとき小林先輩の上履きは黄色かった。しかし今、目の前にいる小林先輩は三年生だ。上履きの色が俺と一緒なわけがない。つまり、あの日、俺が見ていたのは噂を本当だと断言した先輩は、小林 柚希さんだったのではないか。

 思いついた衝動でこれも一緒に述べると、小林先輩は「そうだろうな」と頷いた。あっさり認められ、拍子抜けする。怒られると覚悟を決めたのに。そんな俺の心中を察したのか、先輩は「お前の話のほうが夢があっていいだろう」と笑った。しかし、笑顔もすぐにひっこめる。


「ただ、あの馬鹿が言ったことは気になる。『用務員に殺されてない』だったか」

「おおむね同じです」少し冷めたココアを飲んだ。「どういうことなんでしょう」

「どういうこともクソもないだろ、柚希は別の人間に殺されたんだ」


 きっぱりと言い切る。よかった。ほっと息を吐きだした。この人は幽霊でも偽物でもない、小林先輩だ。


「誰でしょう、犯人」

「知るか」一蹴された。「用務員も真犯人を知っていただろうし、他人の罪を被りたくはないだろうからすぐに捕まるだろ」

「そうですね」


 ほっとして俺はココアを飲んだ。

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