2014/11/10 17:17:17


 __覚えておいてほしいことだ。

 用務員の言葉がこびりついて離れない。

 警察に連絡してすぐに用務員が戻ってきた。死体を見つけた俺は何も言えずに、ただ彼を見つめた。ペットボトルの落ちる音が沈黙を破った。俺じゃない、と震え声で言った。俺はやってない。もう一度、こちらの目を見て繰り返す。

 もう警察に連絡していたことを告げると用務員は膝をつき、頭を抱えた。俺に何も言えず黙り込んだ。どのような言葉をかけても無駄だと理解したうえでの行動だ。最悪の場合、逆上されて返り討ちにされるのかもしれない。警戒心を解くわけにはいかなかった。


「こうなる気はしてたんだ」


 唐突に用務員は言った。遠くでサイレンの音が響いている。


「だから君を恨もうとは思わない。天罰だ」


 息を飲んだ。軽く頭を下げる。


「ありがとうございます」


 心からの言葉だった。多分、その言葉がなければ一生、この出来事が足かせとなっていただろう。もう一度礼を言うと、用務員は俺をまっすぐに見据えた。


「だが、俺はやってない。いや、語弊があるな。小林 柚希殺してない」

「どういう意味です」


 思わず語気を強めた。解決してないのか? そんな馬鹿な。


「覚えておいてほしいことだ」


 扉が強引に開いた音がすると同時に警官が飛び込んでくる。用務員は抵抗することも無く手錠をかけられた。無言で連行されていく。

 事情聴取は学院で行うらしく俺は一人、教室に座っていた。冬の18時となれば辺りはすっかり暗くなっていた。ぽつりぽつりと街灯がつくのが見える。

戸が開いて入ってきたのは担任の小栗だった。


「俺も立ち会えって」

「すみません、仕事を増やしてしまって」


 こういうときには素直に謝るのが一番、効果的だ。相手は途端に態度を崩す。


「あはは」小栗も例外ではないようだった。「いいよいいよ、大変だったね」

「いえ」疲れ切った表情をしてみる。「そんなこと」

「いや、疲れてるんだろう。最低限の答えでいいよ」


 ありがとうございます。元からそうつもりだった俺はそう返事をした。


「それにしても、あいつが犯人かぁ。昨日喧嘩して分かれちまったから」


 俺は「そうなんですか?」と適当に返事をした。


「ああ。三年前から一緒に赴任してさぁ、良い飲み仲間だったのにな」

「仲がよろしかったんですね」

「まあね」


 会話が途切れると、再び戸が開く音がした。見計らったようなタイミングだ。二人組の男が入ってくる。一気に教室が窮屈なものに感じた。大丈夫、俺ならできるさ。


「それでは事情聴取を始めます。お名前は?」


 愛想よく、元気に、正直に、面倒くさがらずに。息を吸い込んで吐いた。


「K学院2年8組の宇佐見 奏楽です」


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