2014/11/10 16:29:30

『お前、この話を信じるか?』


 小林先輩の問いかけに、俺は首を振った。その時、笑い出したのはあの噂に直接かかわったことを後悔したからかもしれない。信じると言ったら、もっと多くの情報が得られたのだろうか。

 終わったことを考えても仕方がない。抜け殻のように授業を過ごし、チャイムが鳴ると同時にスマートフォンをつける。手掛かりを求めて『0208』を見返している。が、やはり大した情報は得られない。スレッドが立てられていないか探しても無駄だった。

 SHRが終わり、立ち上がる。どこかふらつきたい。


『2011 09/01 19:54:02 とりあえず、三階に行っても誰もいなさそう。ちょっと怖くなってきたから、早足で用務員室に向かうことにする >all』


 となれば、先輩は__口をつぐむ。唇を噛みしめようが、頭を振ろうが事実は変わらないんだ。自分に言い聞かせるように、ゆっくりと深呼吸をする。


「先輩は、死んだ」


 一度口に出してしまえば、あとは簡単だった。今でも鮮明に先輩を思い出せる。胸まで伸びた黒髪、真っ白な肌、針金みたいに細い体、本当にまっすぐな美しい瞳。才色兼備で何でもこなして聡明で、ありていに言えば完璧な人だった。自分を強く持っていたから、誰にも左右されることがなかった。

 要は、この人の事が好きだったんだ。恋愛感情かもしれないし尊敬かもしれないし、なんでもいい、とにかく好きだった。怪談を語るときの子供のような表情も、他人に向かって意見をつげる時の冷めた口調も。今になって気付いた。一緒にいることが当たり前すぎて分からなかった。

 涙が出るかと思ったけど出ない。思っていた以上に俺は薄情なのか。どうすればいいんだろう。歩いていなければ、膝から崩れ落ちそうだった。根拠のない思考を展開することしかできない。

 その中で、あることに気付いた。

 この学院には監視カメラというものが点々とある。出入口、下駄箱はもちろん廊下にも。初歩的な事だが、これを警察に見せればすべて解決するんじゃないだろうか。先輩がどうなったのかも、犯人だってわかる。

 だけど、そのどちらも達成されていない。これらが指し示すことは当然、犯人が見られて困るから。監視カメラを管理している人は、確か。

 用務員だ。

 頭が急にすっきりした。用務員だ、用務員室に行って見せてもらおう。大人の事だ、なにかと理由をつけて断るだろう。だけど、俺は役者だ。半人前だけれど、他者を欺くのには人一倍慣れている。

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