2014/11/09 19:50:45

「やっぱ、イケメンだなぁ、お兄ちゃん」


 妹はテレビの中の俺を見ていたが、唐突に言った。こういう時は決まって共演者のサインをねだる。彼女とって俺はサインを製造する機械にしか見えないのだろう。嫌われたくないから、引き受けてしまうのだが。

 とりあえず、聞いてみた。


「誰のサインが欲しいの?」

「えっとねー」


 テレビに目を向ける。こっそりとため息をついた。俺のサインはいらないのか。

 妹も両親も、対人用の仮面をかぶった『宇佐見 奏楽そら』を俺として見ているからたちが悪い。この学院にだって俺に断りもなく母さんが入学させたし、父さんは大学を勝手に決めようとしている。最悪だ。

 相変わらず味の無い飯を噛み、無理やり飲み込む。家族との食事が一番苦痛だった。一家団欒なんて言葉は縁がない。最近は仕事が増えてきたから、この苦行からも解放されつつもあるが。ああ、やめよう、仕事前に気が滅入る。飯を食べ終え、父が運転する車に乗り込んだ。行先は都内の撮影スタジオだ。

 不意にあの噂を思い出した。スマートフォンの検索機能を立ち上げる。怪談話を愛する小林先輩が「本当だ」とお墨付きをつけた話だ。確かめたくもなる。ほんの些細な好奇心で検索すると、目を見張った。学院の裏サイト。黒い背景に赤い文字。最新でもコメントは一年前のものだけのようだ。

 試しに一番上にあった『0208』というスレッドを見てみる。分類は三つ、その中でコメント数が多いのが『犬の鳴き声』というタイトルのものだ。

 ちょうどいい。それにしても、なんだか導かれているようで薄気味悪さすら覚える。が、見たい気持ちに押されて指は画面をタップしていた。


『2011 08/31 13:00 やっぱさ、あいつがやったんじゃない? >all』


 そんな文章から始まっていた。彼らは皆『あいつ』が犯人だと言っている。読み進めるに、このスレッドのメンバーが飼っていた『あっくん』という子犬が消えたらしい。


『2011 08/31 13:30 だったら、私が確かめてくる』


 各々の推測が述べられる最中、一つ異質なコメントが流れてくる。発言者はKという女生徒のようだ。正義感が強い人なのだろう。メンバーらの激励の言葉を貰ったようで『明日行ってみるね』とコメントしていた。

 次のページに飛ぶボタンに手が伸びる。


「着いたぞ」


 父さんの言葉に現実に引き戻される。はっとして顔を上げるとネオンのきらめきは消え、真っ暗な空間にいた。地下駐車場__仕事場に着いたのだ。慌ててリュックサックを持ち「ありがとう」と顔も見ずに車から降りる。集中しろ、と頬をつねる。まずは仕事だ。終わってからくつろげばいい。

 さっさと建物に入るとエレベーターに乗り込み、仮面を外す。色々あり過ぎて__主に進路相談と飯のせい__疲れ切っていた。顔のマッサージをしていると、目的の階に着く。

 よし、演じてやろうじゃないか。俳優でモデル、現在売れっ子の『宇佐見 奏楽』を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます