一回戦
*
初日。闘技祭の1回戦が、各々の舞台で開始された。こちらは、下級貴族、平民枠で勝ち残った者たちと上級貴族の下位爵位が組まれる。
闘技場には、観客が溢れて外には出店が立ち並ぶ。酔っ払い続出。喧嘩続出。泣き喚く迷子の子ども続出。まさに、4年に1度の祭典である。
「初めぇーーっ……それまでっ!」
「「「「……っ」」」」
開始とともに勝利したのは、シス=クローゼである。観客が声を出す隙がないほどの圧倒的な勝利に、誰もが口をあんぐりと開ける。
一方で。
「初め! それまで!」
「「「「……うおおおおおおおっ!」」」
影薄きクラド地区領主ラグ=ユーラムが、高速の抜刀術で対戦相手を叩き伏せる。そのあまりの速さに観客席からは、歓声が湧き起こる。
また、一方で。
「ぐっ……はっ!?」
闘技場全体を巧みに使い、対戦者の視線を上手く躱しながら、ギザールは対戦者に鋭い斬撃を加え気絶させた。
「それまで!」
「ふぃー」
脱力しながら、腰をポンポンと叩くギザールが、リングから降りたところで、ヘーゼンが待ち構えていた。
「相変わらず手を抜いた戦い方だな」
「若くないからな。初戦から手の内を晒すほど、イケイケでもないんでね」
熟練の剣士は思わず苦笑いを浮かべる。
「褒めているんだ。君はいつだって、考えた戦いをするから重宝している」
「だが、俺の実力ではそこまで上にはいけんぜ」
「君の言葉は、カエサル伯を念頭に置いたものだろう。そこまで、行ってくれればいい」
「違うよ。俺の
例えば、鋼鉄の身体を纏う魔法の使い手が現れれば、それだけでギザールの手はなくなる。
「魔杖を駆使した戦いに持っていければ、ラグ=ユーラムと君ならある程度やれるさ。なんとしても、カエサル伯を削ってくれ」
「だ、だから、難しいって」
「うるさい、死ぬ気でやれ」
「……っ」
扱い、雑!?
そんな鬼畜な発言をする一方で、ヘーゼンは冷静に話を続ける(サイコパス)。
「まあ、君に期待しているのは負けた後の立ち回りだ。死ぬ気でやった末の結果までは求めないさ」
「……はぁ。嫌だね、痛い思いした後に酷使されるのは。で? 本命の実力はどうだった?」
ギザールはリングから降りて、ヤンとワーキャーはしゃいでいるシスの方を見る。
「申し分ないね。幸運にも、軍神ミ・シルに当てることができた」
へーゼンは、ニッコリと笑顔を見せる。
「彼女は、魔法を使えないのだろ? だったら、不利だと思うが」
厳密に言えば、魔杖なしでの魔法は使える。だが、西大陸での実力を、こんな場で披露する訳にはいかない。
「彼女の戸籍は平民枠だ。あちらにも魔杖の使用を許可しなければ、勝負には持っていけるはずだ」
シス=クローゼの体内には聖櫃という聖具が入っている。それによって、尋常じゃないほどの運動神経、反射神経を可能にする。
「あのイルナス皇太子殿下相手にもヒケを取らなかったのだ」
「はぁ……まさか、帝国の皇太子が、ここまで化け物になるなんて……反帝国連合国のヤツらは震えるだろうな」
「反帝国連合国だけじゃない。帝国も……皇帝レイバースにも圧倒的に見せつける」
ヘーゼンはキッパリと答える。
「いよいよ、敵対か?」
「ああ。大陸に真なる太陽を昇らせる時が来た」
「……」
皇帝派との決別。それは、この闘技祭で顕著に現れるということだろう。
「はぁ。父と子の対立を激化させるのは、気が進まないねぇ」
「イルナス皇太子殿下には、乗り越えてもらわなければならない。彼は精神的には未だ未熟だ。真なる皇帝には程遠い」
「……」
鬼だな、とギザールは肩をすくめる。ヘーゼンはイルナス皇太子の生い立ちにも境遇にもまったく同情はしない。ただ、ひたすらに、その器を信じ、火を入れ叩き込み、磨き上げる気だ。
「で、何をしに来た? まさか、わざわざ褒めに来てくれたって訳じゃないだろう?」
「一人、
「反帝国連合国の刺客か?」
「……ああ」
「まったく、恐ろしい男だな」
ギザールは思わず舌を巻く。ここに紛れているのは、反帝国連合国の中でも、最高峰の戦力だ。そんな彼らをハメることなど、容易なことではない。
「だが、どうやって?」
「モズーー「もういい」
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