幻影体


 元救国の英雄グライド将軍。今や、ただの老害。呼ばれてもないのに、チョコチョコ出現して、『お小遣いちょうだい』と言わんばかりに、ヤンの魔力を消費して行く穀潰し。


 必然的に、ヤン、ガビーン。


「な、なんで、あなたが出てくるんですか!?」

「最近の若いもんの切なる願いを刈り取るのがルーティーンなんじゃ、ワシ」

「キチ老害過ぎる!?」


 なんたるクソジジイ。


「はぁ……外れ引いちゃったのかな」


 気を取り直して、ヤンは再び目を瞑り念じる。だが、そんな様子を見ながら、老害が高らかに笑う。


「かっかっかっ! 無駄じゃ無駄」

「……どういうことですか?」

「出る口があって、ワシが出る出る言うて、強引にワシが出るから」

「エタ老害過ぎる!?」


 これでもかクソジジイ。その理論で行くと、虚弱ジジイの雷帝ライエルドは、出てこれないのだが、そこは自分で呼び出すしかないということか。


「た、頼みますから、邪魔をしないでくださいよ。私、知りたいんです」


 今後、へーゼン=ハイムがいない状態というのは、滅多にできないだろう。もし、イルナスが将来、すーの意に沿わない決定をしたとして、自分の力では逆らうことすらできない。


「かっかっかっ! 己の見識不足を他人のせいにするでない、未熟者」

「……どういうことですか?」

「そもそも、ワシは勝手に出てきたんじゃが、それでも、ヤツは別に出ようともしなかった。その理由も知ろうともしないで、『出て来い』なんて叫んでも、うるさいだけじゃろうが、愚か者」

「理由……」


 そんなものが必要なのかと、ヤンは思う。螺旋ノ理らせんのことわりというのは、『使用者の願望を具現化する魔杖』だというのが、へーゼンの見解だ。


 だが、


「だいたい、最近の若い者は礼儀がなっておらん。若いもんが気安く声をかけて老人を呼びつければ、ホイホイと嬉しく駆け寄ってくるとでも思っとるのか、馬鹿者」

「くっ……」


 さっきから、老害が小ウルサイ。こっちの失態につけこんんで、マウントとって、グダグダと長々と説教をしてくる。


 そもそも、いつまで、いるのだろうか。


「さっさと帰ってくださいよ。あなたがいるだけで、私の魔力がゴッソリと持っていかれちゃんうんですから」


 強制的に退場させることもできるのだが、それも、結構な魔力を消費する。自分で出ていってもらえば魔力はいらない。


 だが。


「……」

「……」


           ・・・


「……はぁ?」

「突然耳遠いの老害過ぎる!?」


 恐ろしいまでのクソジジイ。都合が悪くなったら、全部、聞こえないふり。歳を取って、嫌な感じになった全ての詰め合わせのような存在だ。


 ヤンは仕方なく魔力を消費してグライド将軍を強制的に引っ込める。


「ぐっ……こんの……覚えていろ……ワシは……絶対に……割り込むーー」

「往生際が老害過ぎる!?


 しぶといクソジジイ。黙って即刻消滅してほしいのだが、黙らない。


「ふぅ……」


 気を取り直して、今度は、本格的に調べることにした。先ほどのグライド将軍とのやり取りで、手がかりを掴んだかもしれないと言う実感があったからだ。


 ヤンが初めて幻影体ファントムを召喚した時も、火炎槍かえんそう氷絶ノ剣ひょうぜつのつるぎが手元にあった。


 雷帝ライエルドを召喚した時も、雷轟月雨らいごうげつうが側にあった。そう……使用者の魔杖が存在する時、初めて、彼らは姿を現した。


「なんたること……これ以上、幻影体ファントム、要らないと思ってたから全然気づかなかった」


 ヤンは、すぐに家の本棚へと移動して、イルナスの読んでいる書物を漁り始める。


「……あった」


 大陸史。勉強家のイルナスが読むだけあって、非常に分厚く千ページ以上に渡って編纂されている。ヤンはすぐにページをめくって、大海賊アルゴランの箇所を探す。


「……」


 該当のページに到達した。当時は、相当な悪辣を働いていたらしい。そして、彼が晩年の頃に、若き雷帝ライエルドと海聖ザナクレクが討伐したとされている。


 大海賊アルゴランの魔杖は『風ノ不知火かぜのしらぬい


「……凄い能力」


 ヤンが思わず、感嘆の声をあげる。詳しくは書かれていないが、規格外の風の力で、自分だけでなく船すらも飛ばすことができたそうだ。


 雷帝ライエルドの魔杖『雷轟月雨らいごうげつう』に、『雷獣』という魔法があり、空中を含めた瞬間移動は可能だ。だが、飛翔能力のように継戦能力がないので、長期戦には向かない。


「……」


 ヤンは、大海賊アルゴランに関連のある情報を探す。


 魔杖『雷轟月雨らいごうげつう』は、本人が死んだ時、祖先であろう砂漠の民の下へと移動した。ならば、夢で何度も出てきていた砂国ルビナのどこかにあるのだろうか。


「……うーん」


 前の夢の光景を、何度も何度も思い返しながら、ヤンは記憶と情報を繋ぎ合わせていく。もしかしたら、あの記憶は『風ノ不知火かぜのしらぬい』の場所を導いているのではないだろうか。


 そう考えると、砂国ルビナのどこかにあるのだろうか……それとも、西の大陸か……


「いや、違う……」


 若くして奴隷にされたアルゴランは、いつも、太陽の昇る方角を見つめていた。そして、当時、砂国ルビナに竜騎乗りの奴隷商人が大量に発生していた。


「……」


 砂国ルビナの竜騎による猛威を主に受けたのは隣国だった。竜騎の圧倒的な機動力に、国の軍が対処できなかったためだ。


 砂国ルビナの隣の国。


 太陽が昇る方角の国。































「召喚型の魔杖発祥の地……精国ドルアナ」


 

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