第3話

ある日、リンゴをまな板の上に置いて、包丁で切ってやろうとしたら、そこから小人がわらわら出てきてこう言った。


「ここは私達の住まいなので壊さないでください」

「なるほどそうか」


私は頷いた。

「しかし、リンゴが食べたかったのに、それができないとは。なんとも惜しいな」

「それならば」


小人は私に手招きした。

「リンゴの国へ遊びに行きましょう。そうすれば満足するはずです」

「そうだろうな。満足できるだろう」


そこで、俺は小人に導かれるまま、リンゴにプツリと空いていたその穴へ飛び込んだ。


すると、「ほう」と俺は感心した。

「うむ、よくできている。明るい黄色のトンネルじゃないか」

「そうです。光は採光窓で入れていますし、果汁に溺れないようにうすーいセメントで固めているし」

「甘ったるい匂いだな。よだれが垂れる」


色々な有名絵画も並んでいた。

その中で特に目を引いたのが、額縁の中をくり抜いて作った木枠が、そのまま下げられている作品だ。


「これは何を表しているんだ?」

「世界ですね。題名は、『りんご』」

「ふうん」


そうこう歩いているうち、横に赤い扉が見えた。


「あれは?」

「しっ、大きな声を立ててはいけません。男爵がお休みになっているでしょうから」

「男爵?」

「とにかく静かに」


小人はーーいや、この時ばかりは私と同じくらいの背の高さであったのだがーー、

青い顔をして私にそう告げた。


そこで、よくよく耳を澄ましてみれば、確かに寝息が聞こえる。

扉も大きいが、やはり男爵とやらはそれに見合うだけの巨漢と見た。これは面白い。


わずかな隙をついて、私はその扉をノックした。

途端、小人達は一目散に逃げ惑う。

アレヨアレヨと言う間にみんないなくなって、私一人が取り残されているところへ、勢いよく扉が開いた。


「誰だ、お前は」

それは全身真っ茶色の猫だった。


私はその威圧感にブルブル震えながら「誰だか当ててみろ」と返す。


「ん、そうだな。お前は、俺の餌といったところか」

「バカを言うんじゃない。だいたい、どうして俺が食べられると思うのだ」

「何、食べられないのか?」

「そうだ。……見よ、この背中を。カチカチのようだろう?」

「うーむ」

「私は姿形こそ人のものを借りているが、実は鉄塊なのだ」

「ほう。確かにそうかもしれない」

「だろう?お前はこのまま俺をかじるのも良いが、これでは双方のためにならない。そこでどうだ。手を引いてみるというのは」

「よし、そうしよう」

猫はゆっくり帰っていった。

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