第二幕:リーダー(二)

 ウィローは、冒険業仲介所ハロークエストで待っていた2人を見て緊張してしまった。

 自分より2、3才若い女性だったが、まず2人ともとんでもない美人だった。


「初めまして。魔術士マジルのクシィと申します。よろしくお願いいたします」


 艶やかな黒髪と、宝石のような黒い双眸、立派な胸にくびれた腰、それを強調するような露出の多い服を黒いマントで包んでいる。一般的な魔術士マジルは肌を見せないようにするものなのに珍しい。普通、このような派手な服を着るのは、兵士を鼓舞する指揮官ぐらいである。


「初めてお目にかかる。騎士ロールのファイと申す。以後、お見知りおきを」


 神々さえも羨みそうな輝く金髪、そして暖かさがある白い肌、湖の水面を思いだす碧眼と、容姿は非常に目を引く。クシィほど凹凸が激しくはないが、十分に女性的なラインをしている。それがわかるのも、彼女が騎士ロールらしい鎧を身につけていないからだ。

 普通、騎士ロール戦士バールは、板金鎧プレートメール鱗衣鎧スケイルメールなどの防御力として優れている装備を身につける。

 しかし、彼女が身につけているのは、見たこともない青い篭手、白い脛当、黒い胸当てという軽装だ。他には、金髪に真っ赤な炎のような羽根飾りぐらいである。

 鎧としてはかなり軽装だ。闘士トールなみの防具である。

 しかも、腰に下げている剣が細い。普通の幅広の両手剣とはまったく違う。かるく湾曲した、見たこともないかたちをしていた。


「オ、オレは戦士バールのウィローだ。よろしく」


 ウィローを皮切りに、仲間が1人ずつ挨拶をしていく。

 その間も2人は堂々としている。世界冒険者ワールドのタウやテラを前にしても、尻込みひとつ見せない。


「あ、あのさ、2人とも森林冒険者フォレストになったばかりなんだよな?」


 思わずウィローは、守和斗へ小声で不安を尋ねた。

 確かに冒険者レベルと強さは必ずしもイコールではない。強い者でも冒険者を始めたばかりならば、レベルが低いのは仕方がない。逆に戦闘をメインにしない冒険者もいるから、レベルが高くても強いとは限らない。

 しかし今回のクエストは、やはり経験と強さの保証が欲しい。いくら守和斗の紹介と言えど、まだ経験の少ない者を同行させていいのか悩ましいところだった。


「まあ、不安はわかるけど、すぐに実力はわかりますから」


 守和斗が安心するようにと微笑してみせる。

 ウィローとしては、もうこの段になれば信じるしかなかった。


 ともかくメンバーは、これでフルの7人。


 前衛として、戦士バールのウィロー、闘士トールのタウとテラ、そして騎士ロールのファイ。

 後衛として、魔法師マギタのトゥ、魔術士マジルのクシィ。

 そして今回だけ、リーダーとなった冒険生活支援者ライフヘルパーの守和斗。

 なんとも前衛過多のパーティーだが、即席だから仕方がない。


 7人は宝物庫迷宮ドレッドノートに突入し、昨日の魔力子房マッシブの部屋に向かう。

 他のパーティーにより、すでに掃除がされていたらしい。まったく魔物に遭遇することもなく、パーティーは穏やかな雰囲気で歩みを進めた。


「ファイさんは、騎士ロールなのに珍しいですね」


 そのせいで、ウィローもついおしゃべりしてしまう。


「盾も持っていないし、剣も珍しい……」


 その言葉に、ファイが笑う。


「あははは。そういう貴殿も戦士バールながら、大盾を持っているではないか」


「あ、ええ、まあ……」


「ふふふ。そういうことなのだろう。騎士ロールだろうが、戦士バールだろうが、人によって戦いやすいスタイルは違う」


「な、なるほど……」


 肯くウィローの後ろから、刺のある声が割ってはいる。


「なにを偉そうに言ってるのよ」


 それは、クシィだった。

 彼女は腕を組みながら鼻を鳴らす。


「それ、守和斗の受け売りじゃない」


「うっ、うるさい。私はきちんと守和斗から言われたことを消化して自分のものとしているからいいのだ!」


「なにが消化よ。守和斗から防具をもらったからっていい気になって」


「ふふん。なんだ、やはり羨ましいのか」


「うっ、うるさいわね! ……ねえ、守和斗。やっぱり、あたしにもなにかよこしなさいよ!」


「と言われてもな、魔術士マジル向けのアイテムなんて持っていないからなぁ」


「なによ! ファイにだけ贔屓する気!?」


「ふふん!」


「鼻息荒くしてるんじゃないわよ、バカ騎士ロール!」


 話しかけたウィローが蚊帳の外にされ、なぜか2人は守和斗を巻きこんでケンカを始めてしまう。

 苦笑いしながら、ウィローは罵り合う2人を交互に見る。守和斗が呼んだ2人なので仲がよいのかと思っていたが、実際はかなり険悪な感じである。

 しかもどうやら、原因は横で呆れ顔をしている守和斗にあるようだ。


「あ、えーっと……ファイさん、クシィさん?」


 好奇心から野次馬根性が抑えられなくなったウィローは、ついつい横から口を挟んでしまう。

 すると美少女2人の相手を射殺すかのような視線が、ウィローに向けられた。

 その鋭さに思わず身を退きながらも、彼はなんとか言葉を続ける。


「2人は……えっと、その……スワトとはどういう関係なの?」


 とたん、2人は顔を見合わせた。


「…………」

「…………」


 それはほぼ同時だった。今まで険悪でパーティーのチームワークを乱すのではないか思っていた2人が、ぴったり同時に小さく肯き、そろってかるく首を愛らしく傾げる。

 そしてとびっきりの笑顔で、これまた同時に口を動かす。


「「2人とも彼のペットでーす」」


「いい加減、そのパターンはやめてくれ!!」


 ウィローは守和斗のうろたえる姿をその時、初めて見たのだった。

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